【本】17053『「原因と結果」の経済学___データから真実を見抜く思考法』中室 牧子, 津川 友介

投稿者: | 2017-04-04

データ分析、統計学の本が流行っている。
ビッグデータというキーワードから、分析する重要性が叫ばれているのだろう。

本書は、相関関係と因果関係の違いに焦点をあてている。
医学では、因果関係が証明されていなくてもエビデンスと呼ばれるが、経済学はもっと厳密らしい。

この分野、重要なのは分かるが、どこまで社会に影響を与えているかを考えると、厳しい。
たとえば、高齢者の自己負担率をあげると、健康が悪化することなく、外来受診率が10%下がる。
さて、ではこれを政策に応用できるのだろうか。
おそらく、「皆保険制度の日本ではあてはまらない」などと言われて実行には移されないだろう。
高齢化する日本で、高齢者の利便性が下がる政策が実現するのは難しい。

医療費の件もそうだ。韓国などでは、大腸がんによる死亡減少のエビデンスがある大腸がん検診を受けずに大腸がんになった場合、医療費が上がるというペナルティがある。
日本ではこのような議論すらされていない。いくら啓蒙活動を行っても、情報リテラシーの低い、つまり「知ってほしい人間」にはいつまで経っても届かない。
集団の行動を変えるには、経済的なインセンティブが効果的である、これもエビデンスが出ている。

どれだけエビデンスが出ても、世の中が変わらないならば、ではいったいその研究は何のために行われているのだろうか、と思ってしまう。

2つの変数の関係が因果関係なのか、相関関係なのかを確認するために、次の3つのことを疑ってかかることをおすすめしたい。その3つとは、 1.「まったくの偶然」ではないか 2.「第3の変数」は存在していないか 3.「逆の因果関係」は存在していないか である。

2つの変数が因果関係にある場合、再び原因が起こったなら、同じ結果が得られる。「まったくの偶然」「交絡因子」「逆の因果関係」は存在しない。一方、2つの変数の関係が相関関係にすぎない場合は、「まったくの偶然」「交絡因子」「逆の因果関係」のいずれかが存在している。相関関係の場合、再び原因が起こったとしても、同じ結果が得られるとは考えにくい。

この3つが存在しないということを、どのように証明すればよいのか。その方法が、現実と「反事実」を比較することだ。反事実とは「仮に○○をしなかったらどうなっていたか」という、実際には起こらなかった「たら・れば」のシナリオのことを指す。

経済学ではエビデンスという言葉をもっと厳格な意味で用いている。それは、因果関係を示唆する根拠

ある。「健診」と「検診」は違うということだ。健康診断の略称である健診とは異なり、「がん検診」などのように、特定の病気についての検査を行う検診には、寿命を延ばす因果効果があると確認されているものが多い。

医療費の自己負担割合が高くなれば、国全体で支払う医療費は減少すると考えられる。

ランド医療保険実験が明らかにしたことはこれにとどまらない。なんと、医療費の自己負担割合と人々の健康状態のあいだには因果関係がないことを明らかにしたのだ。

つまり、「小さく産んで大きく育てよ」は子どものことを考えたら正しいアドバイスとは言えない

前後比較デザインを改良したものが「差の差分析」である。前後比較デザインとは異なり、差の差分析には、反事実を表す「対照群」が必要になる。

経営学の分野では、女性や外国人といった外見から判別可能な「デモグラフィー型」の人材ダイバーシティと、実際の業務に必要な能力や経験といった「タスク型」の人材ダイバーシティを区別しており、過去の研究をまとめたメタアナリシスによると、企業価値を高めるために重要なのは、後者のタスク型ダイバーシティであることが示唆されている。

高齢者の自己負担割合が低下すると、外来患者数は10・3%増加することが示されている

70歳というカットオフ値の前後で、死亡率の「ジャンプ」は観察されなかった。自己負担割合が低下し、受診や入院の頻度が高くなっても、死亡率は変わらない

医療費の自己負担割合が引き下げられると、高齢者は病院に行く回数が増えるものの、それによって死亡率や健康状態に影響が出ることはない

マイノリティであるアフリカ系アメリカ人や、両親が大卒ではない貧困家庭の人々にはあてはまらなかった。クルーガーらは、偏差値の高い大学で築かれる人的なネットワークが、人種的マイノリティや貧困層に有利に働いたのではないかと

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