【本】16124『医学の勝利が国家を滅ぼす』里見 清一

医療費増大の原因は、高齢化だけではない。
むしろ、医療技術の進歩の方が影響が大きいと言われている。

昨今の高価な薬剤の登場は、まさにそれを象徴すると言えるだろう。

そんな状況で、医師である筆者が私見を述べている。

現在の医療は、患者が求める限り無制限に医療が提供される。
このままだと日本の保険医療は間違いなく破綻する。

破綻を先延ばしするためには、どこかで医療に線引きが必要だ。
つまり、「誰を切るか」を決めなければいけない。
みんなが思い通りの医療を受けられる時代は、すでに終わっている。

よくある自業自得論はなかなか困難だ。がん検診を受けずにがん患者になった場合に高価な”ペナルティ”が課されるのはまだいいが、生活習慣などでは区別できない。つきつめると、遺伝的な差から逃れられず、差別につながる可能性がある。

お金で切る、のは一つの手だ。「あなたはこんなにお金がかかってしまう、しかしもう国には払ってあげる余裕がないので自分で払ってください」とするのだ。悲しいが、一つの方法ではあるだろう。

社会への貢献や、意識レベルを元にするのはあまり賛成できない。認知症になったから治療はもういいだろう、という議論をしてしまうと、脳死患者はどうなるかとか、引いては重症心身障害児なども保険から外される悲劇が引き起こされる。

筆者の提案は、年齢で切る、というものだ。年齢で切って、自由診療にするなどという生易しいものではない。
一定の年齢以上の患者への診療を禁止してしまえと筆者は主張する。
乱暴ではあるが、合理的でもある。ある年齢以上を自由診療でも認めてしまうと、家族内での争いが起きる。どの価格までなら治療するか、などという争いを家族内で発生させないためだ。

なかなか筆者の話は痛快だが、笑い話でもない。何かしないと、保健医療が破綻するのだけは間違いない。
さて、日本政府は誰から切り始めるのか。

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【本】16123『大国の掟 「歴史×地理」で解きほぐす』佐藤 優

佐藤優氏の書いた地政学に関する本である。

・アメリカについて
アメリカの民主主義は、基本的に『白人の民主主義』である。『アメリカ民主主義はつねに「それ以外の存在」、すなわち「外部」を必要とする』
これをトランプ政権誕生前に書いているのだから、流石である。

・ドイツについて
『帝国主義下のドイツ、ナチス・ドイツ、そしてEUには、明らかな共通点が一つあります。それは、いずれも東方への拡大をベクトルとしてもっている』
たとえば、ドイツが脱原発をすることで、チェコが原発増設になる。こうした東欧へ負担を強いるやり方が共通している。

・EUについて
そもそもEUは、キリスト教共同体である。詳しくは、コルプス・クリスティアヌムと言うらしい。
『コルプス・クリスティアヌムとは、ユダヤ・キリスト教の一神教の伝統である「ヘブライズム」、ギリシャ古典哲学の伝統である「ヘレニズム」、ローマ帝国のラテン法の伝統である「ラティニズム」という三つの要素から構成された総合体』

したがって、EUがロシアにまで及ばないのも宗教的な背景もあるようだ。
『EUがロシアやウクライナに延びないのは、コルプス・クリスティアヌムがカトリック・プロテスタント文化圏のものであり、正教文化圏を含みにくいから』

ついでにいうと、ロシア圏について『ウクライナをめぐる対立を、ロシアと欧米諸国との「新冷戦構造」と捉えるのは間違っています。冷戦とは「共産主義と資本主義というイデオロギーをめぐる対立」のことですが、現在の対立は、ウクライナへの影響圏をめぐる地政学的対立として捉えるべき問題』である。筆者の主張は共通しているが、ロシアは緩衝地帯を欲するという原則だ。

・アラブ世界について
『アラブ世界だけは、人権から神権の転換が起こらなかった。だから、現在でも神権です。神権では、神が決めたことがすべてであり、人間が自己統治する余地はありません。』
だから、「アラブの春」のあとに原理主義の政権が誕生したのだ。

『植民地の支配では、少数派を優遇するのは常套手段』 余談だが、このパートで、インドのタタ・グループを思い出した。彼らも、英国統治下で優遇されたゾロアスター教徒の末裔である。

・中国について
『中国はつねに「陸」の問題に悩まされ続けた国』である。現在最も大きな問題は、新疆ウイグル自治区である。
『人民解放軍傘下のサイバー民兵の総数は、二〇一一年一〇月時点で八〇〇万人と推計されている』
これほどの数とは…。
著者は、サイバー空間においても、通常の地政学とのアナロジーとして、『セキュリティを確保するための「山の地政学」を考える重要性』を指摘している。

毎度、勉強になる。地政学について、勉強になる一冊だ。

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【本】16122『不平等との闘い ルソーからピケティまで』稲葉振一郎

格差に関する経済学的知見からの考察について、歴史的な経緯をまとめた本である。

まず、現在でも行われる「成長か格差是正か」「成長と不平等緩和のトレードオフ」という対立は、ルソー、スミスの意見の違いから認められる。

さらに、学校教育が労働者の賃金を引き上げる効果、いわゆる「人的資本」という考え方が出てくる。
『20世紀後半の「人的資本革命」は、労働経済学の脱「政治経済学」化を推し進めると同時に、労使間の分配問題以上に労働者間での所得分配、つまりは賃金と利潤の取り合いよりも、賃金・労働条件の格差の問題をクローズアップするようになった』

一方で、ピケティの特長は、『先進国内の格差に注目した経済学者の多くが、資本所得よりは労働所得、物的資本よりは人的資本に注目したのに対して、物的資本にむしろ注目した』点にある。

社会的に最適なレベルで資本─労働比率を揃えるには、以下の三通りの方法を提唱している。
『一つには、成行きに任せて、各自が鋭意努力して資本蓄積をしていくに任せる、というもの』
だが、これで最適レベルに定常化するには時間がかかる。
『二番目は、資本市場を完備させること』
資本市場が完備すれば、最適なレベルで釣り合うまで資本への投資が進む。
『第三のやり方があります。つまりは国家権力が出動しての、財政的な再分配政策』
日本がやろうとしていますが、経済学者は概して批判的です。

『近年では「そもそも何のための平等なのか、平等を目指すことを通じて我々が大事にしてきたものは本当はなんだったのか」がホットな論争点』

一般的なピケティ本とは、少しピケティの考え方の捉え方が違う印象だった。
この一冊だけですべてを理解するのは難しいかもしれない。

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【本】16121『中国4.0 暴発する中華帝国』エドワード・ルトワック

まず、鄧小平亡き後の経済成長を、筆者はチャイナ1.0と呼んでいる。
『「チャイナ1・0」は、中国の実際の台頭を平和裏に、しかも周辺国の警戒感を呼び起こすことなく実現した』

そして、チャイナ2.0では胡錦濤を中心に、対外的に強硬な政策を推し進める。
しかし中国の意に反し、中国優位に交渉がすすむと思いきや、『周辺国、関係国の内的・外的バナン寝具への動きを促してしまった』。インドのモディ首相、日本の安倍首相のような、『中国との摩擦も厭わないタフな人物』が台頭した。

反省した中国は、『選択的攻撃(selective aggression)』を開始する。
『「チャイナ3・0」は、大きくわけて二つの要素から成りたっている。  第一の要素は、反撃してきた側への攻撃を止めることである。ベトナムと日本との関係がその典型である。第二の要素は、ヘンリー・キッシンジャーから贈ってもらった「馬」に乗って、それを乗り回すというものだ。この「馬」とは、習近平が使い続けている「新型大国関係」という言葉である。これを別の言葉で表現すると、「G2」』
しかし、アメリカはG2という提案は相手にしていない。しかし、中国は米国当局との会談のたびに国内ではG2成功をアピールし、国民にG2という概念を植え付けている。

そして現在、筆者が提案する、現在の中国にとって最適な政策がチャイナ4.0だ。
それは、『南シナ海の領有権の主張を放棄』、『空母の建造を中止』により、周辺国、アメリカの警戒感を解消することができる、というものだ。なるほど劇的な政策転換だ。

筆者は、中国は戦略が弱いと指摘する。その原因は、『(A)内的なコンセンサスの欠如と(B)外的な理解の欠如』と提唱している。確かに、ウイグル族などの問題をみると、中国は国内に問題が山積している。Bについては定かではないが、筆者が言うには『「天下」という世界観、「冊封体制」というメンタリティー』があると。このために外国への理解が進まないらしい。

中国としては、経済発展を続けるためにはアジア周辺国への影響力を強めたいだろうから、筆者のすすめるような政策はとらないだろう。

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【本】『 徹底調査 子供の貧困が日本を滅ぼす 社会的損失40兆円の衝撃 』日本財団 子供の貧困対策チーム #98

”就業率が高いにも関わらず、貧困率が高い背景としてひとり親、特に母子世帯の収入が一般世帯に比べて低いことが挙げられる。”
”子どもの貧困を福祉政策としてだけではなく、社会的な投資として位置づけることの重要性”
”学力が伸びる子どもとそうでない子どもの差は、子ども時代に大人と安定した人間関係を築いてこれたかどうか、の差であるという。この「大人との関係」が、学力だけでなく、その後の経済的・社会的な自立に影響を与えるという見方は、この後に紹介する方々のインタビューでも随所で確認された。”

同一労働同一賃金、母子世帯の貧困を防ぐことが子供の貧困を防ぐことにもつながる。そして教育投資、特に幼い頃の投資が非常に効率が良い投資だというのはわかっているのに、なぜ給食費さえ無償化できないのだろう。

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【本】16120『シンガポール発 最新事情から説く アジア・シフトのすすめ』田村 耕太郎

日本の高齢化は深刻だ。
『一三〇〇万人の働き盛りの日本人が親(義理の親を含めて)の介護問題を会社に直接相談できずに苦しみ悩んでいるということは、日本の就業者数(六三五七万人:総務省統計局調査)のうち、五人に一人がこの問題を抱えている』

筆者は、シンガポールに住んでおり、東南アジアの価値観を肌で感じている。
東南アジアと日本との関係には注意が必要だ。
『一つ。日本がもっとひどいことをしたことを、東南アジアは覚えている。  二つ。東南アジアには中華系が多く、中国人を一括りにして悪くいわれるのが嫌い。  三つ。東南アジアは、日本サイドにも中国サイドにも加担したくない。』
すべての国が親日国といって、無神経な押し付けはよくない。

市場が大きいところは、人材も集まる。
『シンガポールのビジネスエリートは、次の三つの国の人脈と情報をおさえることに腐心しているようだ。中国、インドネシア、マレーシア。』

日本で安穏としていてはいけないな、と感じます。

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【本】16119『インターネットの次に来るもの 未来を決める12の法則』ケヴィン・ケリー

技術の進歩について語った本。面白い。
筆者が述べるように、技術の進歩は自然の摂理に近い。
したがって、『不可避なものを阻止しようとすれば、たいていはしっぺ返しに遭う』

筆者は、すべてが流動化していき、『流れの原動力であるプロセスの方が、そこから生み出される結果より重要』になると説く。つまり、ingが重要になっていく。

そこで、以下の12種類のingに分類して解説する。
ビカミング(なっていく)、コグニファイング(認知化していく)、フローイング(流れていく)、スクリーニング(画面で見ていく)、アクセシング(接続していく)、シェアリング(共有していく)、フィルタリング(選別していく)、リミクシング(リミックスしていく)、インタラクティング(相互作用していく)、トラッキング(追跡していく)、クエスチョニング(質問していく)、ビギニング(始まっていく)

以下、主なポイントを抜粋する。
『2002年のIMFの白書によれば、「コモディティーの価格は過去140年にわたって毎年1%下がる傾向にある」とされる』
このような世界では、モノよりも身体性が貴重となる。つまり、『本は無料だが、身体性を伴う講演は高くなる』ということだ。

さらに、『所有よりも、アクセスできることが重要となる。』

アクセスを保つためには、プラットフォームはシェアされる。
『プラットフォームはそのほとんどすべてのレベルにおいて、シェアすることがデフォルトとなる──たとえ競合が基本にあったとしても』

トラッキングの項目では、ライフログに触れている。これは医療にも応用が予想される。
ライフログを拡張していけば、以下の四つの分野で役立つ
○身体の生体測定値の常時モニター
○あなたが会った人、会話した内容、訪れた場所、参加したイベントのインタラクティブで拡張された記憶
○あなたがこれまでに行なったこと、書いたり言ったりしたことすべての受動的で完璧なアーカイブ
○あなた自身の人生を整理し、形作り、読む手段

一つ一つの項目をじっくり読むことがおすすめの本だ。

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【本】『医学の勝利が国家を滅ぼす』里見清一#97

”同じ75歳でも、バリバリ現役で働いている人もいれば、もう寝たきりになっている人もいる。その通りである。しかしそういう社会的な活動度で選別をすることこそが、不公平ではないか。社会への貢献とかなんとか言い出せば、ではたとえば生まれながらの障碍によりずっと介護を受けていなければいけない人は、相対的にでも早く諦めろ、ということになる。それこそナチス的な発想に他ならない。”
”新潮社のGさんは、「医療と高齢化の話はあまりに大きな問題で頭がクラクラしたが、人は本当に大切な問題は考えようとしないのではないか。安保法案で盛り上がれるのは、あれがどうでもいいことだからだ、と思う」とコメントしてくれた。私も同意する。みんな「どうでもいい」と分かっているから、安心して騒げるのだろう。”

出口治明さんは、働くという面に関しては年齢フリー社会であるべきと言っていた。しかし命に関してはどんな人であっても一律に年齢で区切ってしまうのが、優生学的な考え方を排除する唯一の方法であるという筆者の考えに納得した。よくぞそこまで言ってくださったという感じがあるが、あまりに正論すぎて炎上しないというのは面白い。生きるためのコストをいくらでもかけられるようになった現在、年齢に関わらず、何のために生きるのかを考えなければいけないようである。特に非医療者の方におすすめ。

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【本】『 新・リーダー論 大格差時代のインテリジェンス』池上彰, 佐藤優 #96

”新自由主義とは、いわばお金以外に価値基準がないということで、そうした価値観不在の環境から生じるのがナルシシズムだ、ということです”
”産業革命以来、格差を減らすことができる力というのは世界大戦だけだったことがわかる”
”民主主義が機能不全に陥っている今日において、「諮問会議」のような政策決定のあり方は、先進国に共通の現象です。日本でも、小泉政権以来、その傾向が強まっています。”
”かつての日本育英会が、いま日本学生支援機構となって、返済が遅れているローンをすべて債権回収会社に引き渡している”
”核開発を表明するか、核開発が発覚した瞬間から、日本はウランを輸入できなくなります。…ということは、原発に一定程度依存していることが、逆に、核開発をしない保証になる。”
”近代国家においては、すべての土台をなすのが教育です。ですから、教育の中に、リーダー論、リーダーシップ、愛国心を埋め込む必要があります。しかし、リーダーシップや愛国心などをむき出しで鼓吹しても効果はありません。これまでは、そこを文化に埋め込む形で自然に身に付くようにしてきました。  ところが、その文化が弱くなっています。小説など読んでも無駄だと思っている。日本史も役に立たない。和歌など詠んでも意味がない。しかし、そういうところからは、リーダーは育たない。”
”どうすればリーダーが育つのかは、よくわからない。しかし、少なくとも教養、リベラルアーツを備えていなければ、リーダーとして育たない。”
”エリート教育に必要なのも、実は、個々の知識や教養以上に、人間は「群れをつくる動物」であり、「独りでは生きていけない存在である」ということを教え、学ぶことではないかと思います。”

やはり佐藤&池上さん本はなんだかんだ面白い。選挙前の本ですがトランプが勝つのを予想していたかのような書きぶりでした。

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【本】『男の子の育て方~「結婚力」「学力」「仕事力」。0~12歳児の親が最低限しておくべきこと。~』諸富 祥彦#95

結婚力、にまで踏み込んでいるのが新しい。何か根拠があるわけではなく筆者の考えが書いてある。参考程度に読んでおいていい本。

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