【本】16131『習近平はいったい何を考えているのか 新・中国の大問題』 丹羽 宇一郎

投稿者: | 2016-12-14

筆者は、伊藤忠を経て中国大使を務めた、元実業家・元外交官である。伊藤忠、日本郵政、WFPなどの経験もあるため、多角的な視点から中国を考察している。
一次情報を特に重視している点が素晴らしい。実業家時代にも、一次情報をみずに相場に振り回された経験もあるため、外交官時代にはとにかく現場に行って共産党書記から学生、市場までを見ることを重視している。

習近平は「核心」と呼ばれることも増え絶対的な権力者となりつつある。軍も掌握し、再編成も行った。サイバー軍による情報漏えい事件は後を絶たない。日本との影響については、習近平は現実主義で「隣国である以上は手を組まざるを得ない」ということだ。

国内市場が縮小傾向にある日本が、大量の人口を抱える中国市場を利用しない手はない。国外進出が必須だろう。

“中国のインターネット利用者は二〇一六年六月時点で七億一〇〇〇万人に達し、ネット普及率は五割まで拡大した。”

“二〇一六年に入って、中国国内メディアには、地方の党幹部や地方の指導者が、習近平を「核心」と位置づけ、忠誠を誓ったという記事が載りはじめた。中国政治において「核心」とは政治的権威の象徴であり、この表現で共産党から政治の最高権威者としてお墨付きを得たのは、毛沢東(一八九三~一九七六年)以降、鄧小平と江沢民の二人だけ”

“二〇〇八年のリーマンショック前、自分を中間層だと考えている白人は全体の五三%だったが、二〇一六年には四四%に減り、下層だと考えている割合は逆に二五%から四〇%に増えた”

“訪問に際して心がけたのは三点、その行政区の共産党委員会書記に会うこと、学生たちと交流すること、そして市井の市場を歩くことだった。上から下までとにかく現場を歩いて実態を知るためである。”

“本当に有力で重要な投資はAIIBやADBではなく、二国間の経済協定がメインになる”

“習近平は「世界一の超大国の座」を念頭に、大規模な改革に乗り出した。その象徴が軍制改革である。軍の創設以来、最大とも言われる組織改革であり、二〇一五年十一月にその改革案が決定した。  具体的には、国土防御を目的に地域ごとに七つに分けていた軍区を、対外戦略を目的とする五つの戦区(東・西・南・北・中)に転換し(次の図表を参照)、陸軍中心だった体制から、陸軍・空軍・海軍・ロケット軍という四軍に再編成した。ロケット軍とはサイバー・宇宙空間・核ミサイルなどの戦略を担当する部隊である。”

“中国にとって最も深刻な問題は急速な少子高齢化である。中国国家統計局の発表によると、二〇一五年の中国の人口総数は一三億七四六二万人で、前年より六八〇万人増加した。ところが、労働人口(十六~五十九歳)は二〇一二年に初めて減少に向かい、二〇一四年の全国の労働力人口は計九億一五八三万人で、全人口に占める割合は六七%だった。前年比では三七一万人の減少となった。今後十年は労働力人口の減少が続き、そのペースは二〇二〇年以降に一段と加速して、二〇五〇年までには、いまの水準から二億五〇〇〇万人減少すると試算している。”

“サービス市場は拡大を続けており、起業ブームが起きている。アメリカの調査会社CBインサイトは、「ユニコーン」と呼ばれる未上場で、市場評価額が一〇億ドルを超える世界の新興企業を集計しているが、二〇一六年七月時点で、世界のユニコーン一六八社のうち中国企業は三二社で、アメリカの九六社に次いで二番目に多い。ちなみに日本企業はわずか一社である。”

“習近平は中国と日本は「住所変更できない」関係であり、最後は仲良くせざるを得ないと考えている。”

“日本が生きる道は三つしかないと、私は考えている。一つは「技術」である。日本全体の従業員の七〇%ほどは中小企業に属する。残りの三〇%ほどの従業員を抱える大会社は、数からいえば〇・三%しかない。問題は企業全体の九九・七%を占める中小企業の技術をどのように磨いていくか。”
“第二は「観光」である。二〇一五年には二〇〇〇万人近い観光客が来日し、日本政府は二〇二〇年に四〇〇〇万人まで倍増させようとしている。世界から信頼される観光国にするためには、ホテルやレストラン、レクリエーション施設の業務に学術的裏付けが必要になる。IoT(Internet of Things)、AI(Artificial Intelligence)、ITを活用し、地域の歴史や発展のプロセスなどを含めて、すべての対象を学術的に研究して観光立国のバックボーンをつくる。根底にあるのは「教育」である。  三つ目は「農業」である。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)を未来に生かすための主役もまた「教育」である。今後の農業を考えるとき、地球温暖化などの影響で気象は確実に過酷になる。いままでどおりの農業をやれるとはかぎらない。農業は科学技術の結晶だ。種子学、土壌学、機械工学、気象学。インターネットを駆使して作物育成に最適の条件を選択すべきだろう。反収と生産物で世界一の農業国になる道は、決して無謀で非科学的なものではない。”
“三つの道に共通するのが、教育の重要性だ。日本の将来を決定する唯一の王道が教育ということである。”

“OECD(経済協力開発機構)の先進三四カ国のなかで、日本が高等教育に使っているお金は世界で最低クラスである。四年制大学への進学率はOECDの平均が六二%で、日本は五一~五二%。韓国は七〇%以上、アメリカは七二~七三%、オーストラリアは九〇%ほどである。”

“二〇一二年のGDPに占める教育機関への公的支出の割合は、日本は三・五%で加盟国三四カ国中、最下位。小・中・高校教育費のうち公的支出の割合をみると、日本は九二・六%でOECD平均九〇・六%を上回ったが、大学など高等教育では三四・三%でOECD平均六九・七%を大きく下回り、最低の韓国二九・三%の次に低かった。”

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