【本】17127『絶望の超高齢社会~介護業界の生き地獄~』中村淳彦

投稿者: | 2017-12-10

週刊誌のような内容で、データには乏しい。
ただ、居酒屋のブラックシステムのノウハウが介護業界に流れ込んでいる、というのはなるほどと思った。

介護で最も大変なのは、「歩ける認知症患者」であるというのは、同意見だ。
介護判定では軽く判定されるにもかかわらず、介護負担が大きい。

少ない人員で合理的に運営する「Sアミーユ」は、分単位の労務管理をする代わりに労働基準法違反はなく、サービス残業もほぼなかったという。給料は23万円程度と業界の中では高水準で、人材不足の中で超・超高齢社会を迎える、近未来の介護施設運営を実践していたといえる。

今井被告が起こした殺人と、4人の職員たちの虐待の背景には〝施設長交代〟〝実態のない理想論〟〝徹底的な労務管理〟〝モンスター家族〟〝上層部の無理解〟があった。介護人材が圧倒的に足りなくなる介護2025年問題を抱える中で、Sアミーユが目指した近未来の介護の姿を予見させる「徹底管理する合理的な介護」は脆くも崩れ落ちたのだ。

彼が居酒屋のブラックシステムを作りあげ、それがワタミに伝承されて、居酒屋甲子園なり、介護甲子園になったのです。ブラックの先祖様です」(

岡野氏が指摘するように、実際に介護甲子園は居酒屋甲子園の主催者たちに洗脳イベントの運営ノウハウを教えてもらっている。このカルトイベントの連携は、介護業界が居酒屋や飲食業界に深い影響を受ける象徴的な繫がりだ。介護保険法施行で無数の居酒屋や飲食店が介護事業に参入した。異業種参入で問題なのは素人が介護をすることだけではなく、母体の事業の人材管理や給与形態を介護の世界に持ち込むことにある。

「居酒屋業界では〝FL〟ってフード(原価率)、レイバー(人件費)と呼んでいる。フード売上30%、レイバー30%以内が基本ですね。社員が長時間労働して食材費と人件費を限界まで下げて、やっと15%程度の利益が出る計算です。

末端の社員に独立のための〝修業期間〟という意識を徹底させることで、異常長時間労働に走らせているという。介護甲子園のA理事長も雑誌「ビジネスチャンス」のセミナーで「専門職の給与を上げることはできないので、自分の城を持つ(独立)ことを薦めています」と語っている。

2015年4月の介護報酬の大幅減で、たくさんの真面目に介護に取り込む事業所が閉鎖した。一律の報酬減なので職員に厚い待遇をする事業所ほど、経営は苦しくなる。詐欺や不正請求で副収入が収入のメインとなる暴力団事業所は、介護報酬減程度ではまったく経営は揺るがない。良心的な事業所の多くは経営難、閉鎖に追い込まれ、不正三昧の暴力団直営事業所は肥えて太る。恐ろしい現実があった。

地域包括ケアシステムとは簡単にいえば、軽度高齢者を病院や介護施設から締め出し、自宅に帰らせて、地域住民のボランティアなどによって介護をさせようという無謀な取り組みだ。

お金を払う介護職でさえ、誰もやりたがらないのに、無料で誰が高齢者の介護をするのか? と疑問に思うが、本当にその取り組みは始まってしまった。

介護保険には自己負担の上限を定める高額サービス費支給制度がある。現役並み所得者に相当する世帯は、月額4万4400円。最も重い要介護5の利用限度額は36万650円。3割負担でおおよそ12万円だが、高額サービス費支給制度で上限があるので実質負担は4万4400円となる。一方、軽度の要介護1の限度額は16万6920円、3割負担額は5万76円。これまで1万6692円だったものが2倍、3倍となり、軽度高齢者ほど自己負担増が直撃するシステムをつくりあげた。次回の改正以降は、軽度高齢者が圧倒的に介護保険を使いづらくなり、軽度高齢者の利用が減るのは間違いない。

介護経験者ならば誰でも知っているが、介護に最も手がかかるのは要介護1,2の歩行ができる認知症高齢者である。徘徊する層だ。

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