先進国の経済成長は、イノベーションに起因する。したがって、生産性を向上させることで、人口減少に伴う経済成長鈍化を上回ることが可能だ。これが本書の趣旨だ。
しかし、本書は高齢化の影響をあまりに楽観視している印象がある。
高齢化に伴い、医療、介護サービスの需要が増加する。若年層にとっては、自分が消費しないのに負担するサービスが拡大する。介護、医療が産業として拡大すればするほど、保険をこのまま維持する前提を崩さない限り、若年層が自分で消費できる割合が減る。当然、経済成長しないと生活レベルは下がる。
さらに、特に高齢化で需要が増大する介護業界は、生産性が低く、一人当たりの所得が低い業界だ。ここに人材がとられることで、平均所得を押し下げる効果がある。
イノベーションで生産性を上げればよいという意見もある。しかし、イノベーションのためには人材の奪い合いに勝つ必要があり、それは横並び精神の否定につながる。日本の官製イノベーションを生み出そうとする姿勢が、イノベーターに魅力的にうつるとは思えない。
強いていうならば介護か。介護が自動化され、労働集約産業からの脱却ができるならば経済成長につながる。寝たきり老人のいるベッドが自動的に体位変換を行い、会話は人工知能ボットが応答する。これが「経済成長に望ましい将来の姿」かもしれない。
最後にもう一つ、ツッコミを。
寿命のジニ係数と所得のジニ係数を比較しているが、これは比較可能性がない。死亡はそもそも乳幼児死亡と高齢者死亡が主原因で、二峰性分布をしているためジニ係数は高くなるに決まっている。そして、この山のうち乳幼児死亡率が下がったのだから、当然ジニ係数は急激に低下する。分布が違うものを比較して、「こちらの格差が重大だ」は間違いだ。