【本】17060『日本経済入門』野口悠紀雄

投稿者: | 2017-04-11

野口悠紀雄氏が書いた、日本経済の解説本だ。

具体的には、アベノミクスがどうして株価上昇を招きながら、実体経済には影響を与えていないか、についてである。
アベノミクスの株価上昇については、筆者も指摘しているが、アベノミクスの影響ではないだろう。
むしろ、円安による影響の方が大きい。だからこそ、円安が一服すると株価上昇が止まった。

ベアについても厳しい。
春闘のカバーする部門では賃金が上昇するが、それ以外では賃金が低下し、雇用状況は悪化する。
政府がベアを指示しても、それが企業の収益を悪化させるのだから無理もないことだ。
結局、国家主導の財政誘導は難しい。
中国もびっくりの市場介入はもう止めにしたほうがいいのではないか。

社会保障については絶望的と言っていい。
年金は想定利回りが高く、経済成長率も楽観的。なぜこのまま実現してしまったのか。
年金制度改革は、「世代間の戦争」と述べているが、まさしくその通りだ。
50代の、「逃げ切り世代」ならまだいい。
この世代は、「若者は、万が一に備えて年金を払ったほうがいい」、「世界に冠たる皆保険制度」と述べるだろう。

しかし、30代以下にとってはどうだろうか。あと30年後に、現在の社会保障制度が維持されている保証はない。
どの程度か分からないが、自助努力が求められるのは間違いない。

古典的な経済学は供給面の要因を重視するのに対して、「ケインズ経済学」と呼ばれる理論では、需要面を重視します。大雑把に言えば、「長期的には供給面の要因により経済成長が決まり、短期的な経済変動は需要の変動によってもたらされる」と考えることができます。

日本の高度成長は輸出に主導されて実現されたと考えられることが多いのですが、そうではありませんでした。国内の旺盛な需要に対応して生産能力の拡大が図られ、それが投資需要となってさらに経済を成長させるという構造

日本と中国の産業構造が基本的に同一のものだからです。「日本の中国化」を回避するには、産業構造を変えるしかありません。

固定資本減耗120兆円に対して総固定資本形成123兆円と、ほぼ同額になっています。つまり、現在の日本の投資は、減耗する資本ストックを補塡しているだけであり、資本ストックを積極的に増やすことにはなっていないということです。  資本減耗は、所得にはなりません。したがって、GDPを豊かさの指標として用いる場合には、本来は減耗分を引いたものを用いることが必要です。

1人当たりGDPという指標を用いて国際比較をすると、日本の数字は新興国に比べて豊かさを過大評価していることに注意が必要です。

郡部人口に対する市部人口の比率は、50年には0・6であったのですが、65年には2・1に上昇し

「求職者が減ることによって(つまり供給の減少によって)有効求人倍率が上昇する」というのは、「雇用情勢の好転」ではなく、「人手不足」です。歓迎すべきことではなく、憂慮すべきこと、そして対策が必要なこと

仮に税引き後利益の増加に対応して企業が支払賃金を増やすとすれば、利益は減少してしまいます。そうした経営を(政府の圧力などにより)強制されれば、企業は雇用を削減するだけのことです。

春闘がカバーする部門では賃金は上昇していますが、就業者が減っています。他方で、春闘がカバーしない部門で就業が増え、そこで賃金が下落します。このために、全体の賃金が下落するの

経済の活性化は、春闘への介入によっては実現できません。この問題の解決策は、高生産性の部門が新しく登場し、そこが雇用を増加させることでしかない

ピケティは、21世紀において、「所得に占める資本所得の比率」(α)は、18、19世紀に並ぶほどの高水準になるとしています。  ピケティは、以上の関係が実際のデータで確認されるとしています。しかし、右に見たように、日本では、労働所得と資本所得の比率はほぼ一定であって、上昇していません。したがって、所得に占める資本所得の比率もほぼ一定であって、上昇していません。つまり、ピケティの主張(1)は日本では成り立っていないのです。

GDPベースの貯蓄率を見ます。これは、家計の貯蓄のみならず、企業や政府の貯蓄をも含む広義の概念です(具体的には、「国民可処分所得と使用勘定」における「貯蓄」と「国民可処分所得」の比)。  この定義による貯蓄率は、1969、1970年度には30%を超えていました。しかし、2011、2012年度には1%を下回るまでに低下してしまいました(図表4‐3)。

資産保有そのものに課税することが必要になります。しかし、資産(とくに金融資産)保有状況の把握が困難であること、政治的な抵抗が強いことなどから、資産保有に対する課税は大きな困難を伴います。

原材料価格の下落が、企業利益の増大と内部留保の拡大にとどまってしまって、消費者物価を下落させなかったことです(注)。

円安によって輸出企業の利益が増大し、株価が上昇したのは事実ですが、輸出数量が増加しないので、実体経済には影響を与えなかっ

金融政策が効果を持つためにはマネーストックが変化しなければなりません。金融政策に本来期待されるメカニズムは、「マネタリーベースの増大がマネーストックを増大させ、マネーに対する需給を緩和することにより金利が低下する」というものです。ここで、「マネーストック」とは、経済に流通するお金の残高であり、「マネタリーベース」とは、マネーストックの基となるもの

13年3月から16年3月の3年間で、マネタリーベースは約228兆円増えました。  しかし、マネーストック(M2)は約89兆円しか増加しなかったのです。年平均の増加率で見れば、マネタリーベースのそれは39・1%にも及んだのに、マネーストックのそれはわずか3・4%でしかありませんでした。この状態は、「空回り」としか表現できないもので

経済活動が低迷して貸し出しが増えないときに、金利が非常に低い水準に落ち込んでしまうと、(マイナス金利を採用しない限り)金利をそれ以上低められないので、貸し出しに影響を与えることはできません。

総務省「労働力調査」によって労働力率(人口に対する労働力人口の比率)を見ると、経済全体で、1970年代から90年代までは63~64%程度であったものが、90年代の末から急速に低下しています。2013年では59・3%です。これ

生産活動の海外移転は、輸出を減らし、貿易収支を赤字化する点でも問題だとされます。しかし、第2章の製造業の海外移転は不可避の項で述べたように、海外生産の利益が日本に還流すれば、所得収支の黒字が拡大します。それによって、経常収支の赤字化を防ぐことができます。

20~59歳層については、医療費より「保険料および自己負担額」のほうが大きくなっています。たとえば、40~44歳の場合には、保険料および自己負担額が1人当たり年額28・6万円であるのに対して、医療費はその半分未満の13・0万円でしかありません。  しかし、60歳以上になると、この関係が逆転し、医療費のほうが「保険料および自己負担額」より大きくなります。  たとえば、75~79歳では、医療費が1人当たり年額76・1万円であるのに対し、「保険料および自己負担額」は13・5万円でしかありません。自己負担は6・6万円と、医療費の8・7%でしかありません。

厚生年金の場合、「過去期間に係る給付」が830兆円です。これは、過去の保険料負担に対応する給付

一般会計が発行する国債の残高は、16年度末で838兆円の見込みです。右に見た585兆円は、それとあまり変わらぬ規模です。つまり、国の赤字残高は、通常いわれるものの約1・7倍である1400兆円程度と考える必要がある

厚生省は、保険料が低過ぎた理由として、「国会審議の過程で保険料が値切られたから」と説明しました。つまり、責任は政治家にあるというわけです。保険料率6・9%から5・5%に値切られたのは事実ですが、そもそも提案した保険料が安過ぎた

14年財政検証では、いくつかのケースが想定されていますが、ケースAでは、実質経済成長率1・4%に対して、実質金利が実に3・4%という高い値です。実質賃金上昇率は2・3%です(最も悲観的なケースHでも、実質経済成長率マイナス0・4%に対して、実質金利が1・7%、実質賃金上昇率は0・7%です)。  実質金利がマイナスになっている現実に比べて、想定されている実質金利の絶対水準が高すぎるのが問題です。それだけでなく、金利と経済成長率の相対関係も間違っています。運用利回りが賃金上昇率よりこれほど高い値になるのは、ありえないことです。

第1は、マクロ経済変数がどうなるかにかかわらず、名目年金額を減額することとなっても、マクロ経済スライドを強行することです。給付を毎年0・9%減額するマクロ経済スライドを強行し、所得代替率が50年代に4割を切ることを甘受すれば、積立金はゼロになりません。  第2の方法は、年金支給開始年齢を引き上げることです。既裁定年金も含めて支給開始年齢を70歳に引き上げれば、40年度における年金給付額は、マクロ経済スライド強行の場合とほぼ同じになります。

年金改革によって受ける影響は、世代間で大きな差があります。しかし、年金制度改革の評価は、本来は世代によって大きく違うはずです。これは、世代間の戦争なの

インボイスとは

自分の段階での付加価値を加えた額に消費税率をかけて算出される消費税額を納付します。これによって、その段階における付加価値に課税されることとなります。

結果、「政府プラス日本銀行」が民間セクターに対して保有する負債は、「国債」という形から「日銀当座預金」という形に急速に変わっています。

「財政ファイナンス」と呼ばれます(

日銀引き受けの国債発行を禁止する財政法第5条の脱法行為

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