【本】17051『ルポ・税金地獄』朝日新聞経済部

投稿者: | 2017-03-29

松浦新さん達の取材チームが書いた本。税金の問題は、グローバル企業などの節税対策が批判され、欧米でも問題になっていることではある。
とはいえ、税制が複雑になればなるほど抜け道だらけになるのだから仕方ない。富裕層はコストを払って抜け道を探す。もっと規模が大きくなれば、大企業はおカネを渡して税控除を作ってもらう。政治家からすると、この控除というエサを残すことが、複雑な税制の旨味なのだろう。政府献金による税控除の実現は公然とできて、口利きによる国有地の値引きは批判される、どう違うのかよく分からない。ベーシックインカムなど、もっとシンプルな税制にすれば怪しいところは減るだろう。
この本では零細自営業のことも書いてあったが、木下斉さんの本などでは、シャッター街の商店主も、主な収入源は不動産で、自営業の肩書き維持のためにシャッターを下ろしている(だから潰さない)ところが多いとのこと。そして、零細自営業の逆風は、税金というよりも流通の変化などの影響が大きい気がする。いずれにしても我々は所詮サラリーマンなので、逃げ道がない。
全体的に富裕層vs庶民の構図を説明している。老人地獄の続編であるならば、世代間の争いに言及しても良い気がした。今後、高齢者層と生産年齢人口層間の利害の対立は必ず深刻化する。しかし、民主主義&年功序列の行政体制では高齢者層に勝てるわけはない。そこで、高負担を嫌う生産年齢人口層のうち外に行けるものは国外流出する。この流れはもう起きているのでは。
けれども、このようなリスクテイカーを応援できない国ならば、もはやイノベーションも発展も望めないので、早晩逃げ出した方が良い。

相続対策もぬかりない。不動産取引に使う金は個人名義で銀行から借り、資産管理会社に貸し付ける。その貸し付け債権を毎年約百万円分ずつ、妻や二人の子に生前贈与する。年に百十万円までなら贈与税がかからない。こうしておけば、会社がお金を返す時に、その受け取り先は妻や子になる。

中でも集中したのが新潟県湯沢町だ。不動産情報会社の東京カンテイによると、全国に約八万戸のリゾートマンションがあるが、湯沢町にダントツの約一万三千戸が集まっている。その結果、湯沢町には住民票を置く約三千七百世帯の約四倍のマンション戸数がある。

リゾートマンションの利用者は、スキーシーズンにやってくる若者から、定住する高齢者に変わっている。従来はキッチンが小さいなど、定住には向かないと考えられてきたが様変わりしているのだ。町によると、二〇一六年四月の町民八千人余りのうち、一千人余りがリゾートマンションに住民票を置いている。町民に占める割合は〇六年に五%を超え、十年で一二・四%まで増えた。課題はリゾートマンションの高齢化率が四三%超と、町全体より八ポイントも高いことだ。バブル景気のリゾートブームで買った人たちが定年を迎えるなどして移り住んでいることに加え、地元の人も高齢で冬の雪下ろしが負担などの理由で移住しているという。

三世代が同居し、老人の面倒を子や嫁がみるようにすれば、社会保障費が抑えられるという考えが底流にある。  こうして三世代同居という古めかしい家族形態にスポットライトが当たり、三世代同居税制が実現することになったのだ。

ボランティアに「報酬」を出す自治体もある。秋田県小坂町は、研修を受けた住民ボランティアが要支援者宅を訪問し、買い物やゴミ出しを手伝う。ボランティアには三十分当たり二百五十円が支払われる。一方、東京都練馬区では、ボランティア色は薄くなっている。要支援者の家事を支援する住民には時給千円以上が支払われる。そのために必要な区の研修では、五十人の募集枠に子育て世代ら二百三十人が応募した。担当課長は「きちんとした対価を支払えば、若い人も呼び込める」と話した。

淑徳大学の結城康博教授は、こう指摘する。 「自治会など地域活動の担い手は減っています。この状況の中で十分なボランティアを集めるのは難しい。一部には運営力がある自治体がありますが、多くは何をするべきか戸惑っています。結局、成功するのは一、二割でしょうから、自治体間の介護保険サービスの格差は拡大するでしょう」

介護は「互助」「自助」が強調され、地域や個人の負担が増えていく。あるケアマネジャーは介護の将来をこう語る。 「これから頼れるのは自分のお金。それしかない」

「ようこそ滞納いただきました」  野洲市の山仲善彰市長はこのように公言してはばからない。その真意はこうだ。 「税金を払いたくても払えない人こそ、行政が手を差しのべるべき人です。滞納は困っていることを知らせる貴重なSOSです。まずは就労支援など、生活を立て直す手伝いをしながら納税を促していきます。遠回りに見えるかもしれませんが、実は、そのほうが効率的で市のコストも少なくすみます。行政が気に入らないから払わない、などという市民はごくまれで、大半は病気やリストラ、離婚などがきっかけでつまずいた人たちだからです」

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