【本】17012『新・所得倍増論―潜在能力を活かせない「日本病」の正体と処方箋』デービッド・アトキンソン

投稿者: | 2017-01-23

「生産性をあげるのは、経営者の責任だ」という筆者の主張に納得した。
日本の医療は非常に効率が悪い。必要以上の薬剤処方、抗菌薬の乱用、誰も望まない延命治療etc…

これらが放置されてきたのは、制度設計の問題である。医療者にはこれらを是正するインセンティブがないからである。医療者の行動を決める因子として、患者の医学的利益、患者の満足度、自らの利益などはあるだろうが、国の医療費抑制などを目標に医療を行う人はまずいない。もしいたとしたら、勤務で、しかもそのような変わり者を受け入れる余裕のある病院が雇っているだけだろう。国の医療費抑制は、病院の利益に相反するものだからだ。

本書でも、筆者が改革を訴えるたびに、日本の独自性を主張して改革が進まない様子が描かれている。医療でもまさしくそのとおりだ。「世界に冠たる国民皆保険」などというが、日本の保険方法をまるっきりとりいれている国はないだろう。非感染性疾患全盛期の時代に、国民皆保険はどうみても国庫負担が増加しすぎて継続性がない。日本式医療の素晴らしさを謳って思考停止するまえに、もう一度継続性のある医療について考え直す必要がある。

特に、過疎地域の医療機関などはいい例だろう。住民が少なくなり、医療需要が減っても、ほそぼそと運営している病院などだ。需要がないなら病床を維持し続ける必要はない。医療の多くは無床診療所で完結する。入院が必要になれば、他の病院へ転送すればよいだけである。自治体の首長は住民からの要請のために維持を選択するかもしれないが、不良債権を抱えて傷口が広がるだけである。維持不可能な病院に補助金を流し込むのは、まさしく『自分自身が変わる努力をしていないのに「私益」を維持しようとすることが、実は公益を損なう』好例と言える。

生産性を上げるのは、労働者ではなく経営者の責任です。世界一有能な労働者から先進国最低の生産性しか発揮させていないという日本の経営の現状は、いかに現行の日本型資本主義が破綻しているかを意味しています。この経営者の意識改革は、喫緊の課題です。

日本の1人あたり研究開発費は1344・3ドルで、世界第10位。ドイツの1313・5ドルとほぼ同じとなっています。アメリカは1人あたりで見ると世界第5位

世界の観光ビジネスでは、「観光大国」になるためには、「自然、気候、文化、食」の4つの条件をすべて満たさなければいけない

労働者が自ら進んで生産性を上げるということはほぼあり得ず、生産性向上は、経営者によってなされるのが常識だからです。

サッチャー首相は改革ができたのでしょうか。客観的に分析してみると、彼女が「イギリス史上初の理系出身首相だった」という主因が浮かび上がります。閣議の際、彼女が「おはよう」の挨拶のかわりに、「What are the facts?」

イギリスに初めて、「統計や分析に基づく政策運営」(Evidence Based Policy Making:EBPM)を導入したとされているのです。

新・観光立国論』などで私が観光の重要性を主張すると、かならずと言っていいほど「日本のやり方に従わない外国人がたくさん来ても迷惑なだけ」「郷に入れば郷に従え」という反論がありますが、これも供給者側が強い社会の特徴

2012年を中心とした直近のデータによると、日本のワーキングプア比率は国連平均の11・2%を大きく上回る16・0%でした。

政府には生産性を追求するインセンティブがあるのは明らかです。問題なのは、企業経営者にそのインセンティブがあるかどうかです。これまでは明らかに、そのインセンティブは働いていませんでした。

日本のルールは、本来そのルールがもつ意味が忘れられ、ルールを守り続けることだけが目的化してしまっているという特徴があります。つまり、ルールが再検証されないのです。

日本の研究開発費率が高いのはGDPが異常に低いからであって、実際には1人あたり研究開発費はアメリカより低いので、記事の主張はそもそも、間違えた前提に基づいています。

自分自身が変わる努力をしていないのに「私益」を維持しようとすることが、実は公益を損なう

「私益」が「公益」を損ねる場合、アメリカや他の先進国のように政府が規制して、「私益」の膨張を押さえるべきです。しかし、「私益」が得られない人たちが増え、その損を国家が補填せよと言い出したら、もはや収拾がつきません。「私益」をどうにか確保したい人たちを「かわいそう」だから助けるために、「公益」を損ねていくのか。なかなか膨らむ気配のない「私益」とともに、「公益」もどこまでも墜ちていくのか。これは今の日本の死活問題にもなる、きわめて重要なテーマ

利益あっての社会保障制度なのに、この世代の人たちは「利益・効率化・生産性向上」を否定する傾向が強い

日本の2015年の1人あたり輸出額は4914ドルでした。これはアメリカとほぼ同じですが、韓国(1万371ドル)の約半分、ドイツ(1万5000ドル)の3分の1程度です。  日本の経済基盤からすると、1人あたり輸出額は1万ドルから1万5000ドルの間が適切な水準でしょう。これを総額に直すと、約160兆円あってもおかしくはないのです。今は約62兆円ですから、約3倍に引き上げていく潜在能力があります。ドイツ、スウェーデン、デンマークができて、日本にできないはずはありません。

主にドイツをのぞくEU諸国では、「その国の首都の生産性が、全体の生産性を引き上げている」

サッチャー首相の名演説の中にあります。  「低所得者層が次第に貧困になっても、格差をなくしたいという野党の政策は正しくありません。格差が多少広がることになっても、低所得者層の所得を上げていく、ということが政府の腕の見せどころでしょう」

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