【本】17010『行動経済学~経済は「感情」で動いている〜』友野 典男

投稿者: | 2017-01-21

おもしろいもので、同じ時期に購入した本は、似たような内容であることが多い。
もちろんタイトルから狙ったものもあるが、タイトルから予測できないほど内容が似ていることもある。
本書は、超予測力と内容が似ている。
感情によって動かされる経済をテーマにしており、内容は認知バイアスについての具体例が多い。

医療でも、患者の行動変容などについて参考になるだろう。

経済学では合理性という語にかなり限定した意味を付している。まず、自分の嗜好(好み)が明確であり、それには矛盾がなく、常に不変であること。そして、その嗜好に基づいて、自分の効用(満足)が最も大きくなるような選択肢(たとえば商品)を選ぶということである。

ヒューリスティクスは、問題を解決したり、不確実なことがらに対して判断を下す必要があるけれども、そのための明確な手掛かりがない場合に用いる便宜的あるいは発見的な方法のことであり、日本語では方略、簡便法、発見法、目の子算、さらには近道などと言われる。

ヒューリスティクスに対比されるのがアルゴリズムであり、手順を踏めば厳密な解が得られる方法のことである。

ヒューリスティクスの第一のものは「利用可能性」である。利用可能性とは、ある事象が出現する頻度や確率を判断する時に、その事象が生じたと容易にわかる事例(最近の事例、顕著な例など)を思い出し、それに基づいて判断するということである。

喫煙や飲酒などの習慣がなかなか止められないのは、行為時点とその結果が現われる時点とが時間的に大きく隔たっており、行為する時点では、長い間たった後にどんな結果が引き起こされるのかについて想像するのが難しいことが原因の一つである。したがって政策的に禁煙を推進するとしたら、喫煙はガンにかかる確率を上昇させると主張するより、ガンになった場合の悲惨さをアピールする方がキャンペーンとしては効果的であろう。

人々がよく用いるヒューリスティクスの二番目が「代表性」である。これは、ある集合に属する事象がその集合の特性をそのまま表わしているという意味で「代表している」と考えて、頻度や確率を判断する方法である。

アンカリング効果から確証バイアスと言われる傾向が生じる。確証バイアスとは、いったん自分の意見や態度を決めると、それらを裏付ける情報ばかり集めて、反対の情報を無視したり、さらに情報を自分の意見や態度を補強する情報だと解釈するというバイアスのことである。さらに、確証バイアスから自信過剰という傾向が生じることもわかっている。

大学の優秀さの判定、商品の評価の判定、スポーツチームの成績の判定などでも、名前の再認と判定の正確さには正の相関関係がある

二重プロセスとは、人間が持っている二つの情報処理システムのことである。一つは、直感的、連想的、迅速、自動的、感情的、並列処理、労力がかからない等の特徴を持っているシステムであり、システムⅠと呼ばれ、もう一方は、分析的、統制的、直列処理、規則支配的、労力を要するといった特徴で表わされるシステムであり、システムⅡ

保有効果は、人があるもの(権利や自然環境、経済状態、健康状態などを含む)を手放す代償として受け取ることを望む最小の値、すなわち受取意思額(WTA)と、それを手に入れるために支払ってもよいと考える最大の値、すなわち支払意思額(WTP)が乖離する

公園を作るといった公共事業では、公園のもたらす便益を算定する必要があるが、公園は市場で取引される財ではないから、便益の測定にはさまざまな困難が伴う。そこで仮想的な市場を設定して実験的に便益を測定する「仮想的市場法(CVM)」という測定法がよく用いられる。CVMは、どのような財やサービスの便益の評価に対しても適用できるから、最近は公共財の供給や公共事業、環境などの広い範囲での便益評価法として用いられている。CVMの要点は、人々にWTAとWTPを直接回答してもらい、便益を金額で表現しようというものである。  この場合WTAとWTPが乖離するのであれば、適切な評価としてどちらを採用すればよいであろうか。この指針に関しては決定的な結論は未だに出ていない。

労働の超過供給が存在する時には、賃金は下方硬直的(下がりにくい)になりうる。

人が何をもって公正とみなすかという視点が公共政策に及ぼす影響は大きく、それを考察する場合には、参照点依存性と損失回避性を無視することはできない

初期値の設定が人々の意思決定に影響を及ぼす原因は三通りある
まず、公共政策に関連する場合には、人々が、初期値は政策決定者(多くは政府)の「おすすめ」だと考え、それを良いことだとみなすこと

第二に、意思決定を行なうには時間や労力というコストがかかるが、初期値を受け入れればコストが少ないから

第三に、初期値とは現状のことであり、それを放棄することは前章で述べたように損失とみなされ、損失を避けるために、初期値を選ぶことである。

経済学や経営学では、過去に払ってしまってもう取り戻すことのできない費用をサンクコストあるいは埋没費用という。そして、現在の意思決定には、将来の費用と便益だけを考慮に入れるべきであって、サンクコストは計算してはいけないのが合理的であると教えられる。

アークスとブルーマーは、サンクコスト効果が生じる原因として損失回避性以外に二つの要因を挙げている。

一つは評判の維持である。途中でこれ以上の投資は無駄だから計画を中止するということは、過去の決定が間違っていたことを意味する。

二つ目は、ヒューリスティクスの過剰な一般化である。「無駄にするな」という標語やルールは子供のころからよく言われ、意思決定に当たってヒューリスティクの役割を果たす。このヒューリスティクはさまざまなところに適用されて効力を発揮するが、サンクコストというこのヒューリスティクを適用すべきでないところにまで適用してしまうために間違いが生じるというのである。

小さい子供はサンクコストに惑わされることは少ないが、年齢が進むにつれてサンクコスト効果が認められるようになる

経済学や意思決定理論では、人々が自由に選ぶことができる選択肢は多ければ多いほどよく、人々の満足は大きいという前提がまったく暗黙的に置かれている。

消費者は、多様な選択肢が用意されている方に魅力を感じるが、結局、選択肢が多すぎると決定ができない

イェンガーは、自分が把握するのが可能な範囲内で選択をすることが選択者にとっては望ましく、過剰な選択肢があるとむしろ選ぶのを間違えたのではないかという一種の後悔や失敗の感覚にとらわれるのではないかと指摘

皮膚科医が、「太陽光線に当たりすぎると皮膚ガンの危険があると警告してもあまり効き目はないが、シミやニキビの原因になると言うと患者たちは言いつけを良く守る」と語る例

個人の肥満度と将来の健康に関する割引率との間には多少の関連性はあるが、近年の肥満の増加を割引率の上昇と結びつけて考えることはできないと結論づけている。それよりも、近年の肥満の増加は、高カロリーの食品が安価に手に入ることになったのが原因ではないかと

苦痛が最もひどいときと最後の数分間の苦痛の記憶が検査全体の印象を決めることから、カーネマンらは「ピーク・エンド効果」と名付け、後者の検査時間の長さには無関係であるという特徴を「持続時間の無視」と呼んでいる。

罰金が導入された後は、「時間をお金で買う」という取引の一種と考えるようになり、やましさを感じずに遅刻ができるようになった

制裁システムが導入されることで、社会規範やモラルによって規制されていた行動が市場での取引のように考えられてしまう

コミットメント
経済学で使われる場合にはもっと強い意味を持ち、一つあるいは複数の選択肢を放棄することあるいはそうするというサインであって、それによって自分や他者のインセンティブや期待を変えて、行動に影響を及ぼすこと

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