格差に関する経済学的知見からの考察について、歴史的な経緯をまとめた本である。
まず、現在でも行われる「成長か格差是正か」「成長と不平等緩和のトレードオフ」という対立は、ルソー、スミスの意見の違いから認められる。
さらに、学校教育が労働者の賃金を引き上げる効果、いわゆる「人的資本」という考え方が出てくる。
『20世紀後半の「人的資本革命」は、労働経済学の脱「政治経済学」化を推し進めると同時に、労使間の分配問題以上に労働者間での所得分配、つまりは賃金と利潤の取り合いよりも、賃金・労働条件の格差の問題をクローズアップするようになった』
一方で、ピケティの特長は、『先進国内の格差に注目した経済学者の多くが、資本所得よりは労働所得、物的資本よりは人的資本に注目したのに対して、物的資本にむしろ注目した』点にある。
社会的に最適なレベルで資本─労働比率を揃えるには、以下の三通りの方法を提唱している。
『一つには、成行きに任せて、各自が鋭意努力して資本蓄積をしていくに任せる、というもの』
だが、これで最適レベルに定常化するには時間がかかる。
『二番目は、資本市場を完備させること』
資本市場が完備すれば、最適なレベルで釣り合うまで資本への投資が進む。
『第三のやり方があります。つまりは国家権力が出動しての、財政的な再分配政策』
日本がやろうとしていますが、経済学者は概して批判的です。
『近年では「そもそも何のための平等なのか、平等を目指すことを通じて我々が大事にしてきたものは本当はなんだったのか」がホットな論争点』
一般的なピケティ本とは、少しピケティの考え方の捉え方が違う印象だった。
この一冊だけですべてを理解するのは難しいかもしれない。