【本】17073『AI経営で会社は甦る』冨山和彦

投稿者: | 2017-05-12

デジタル技術の業界はそもそも、サイクルの早い試行錯誤を重んじ、β版でも平気でサービスとして運用する。
使用経験をフィードバックすることで洗練化させることに重きを置いてきた。

しかし、技術革新によって、正確性、ミスの許されないシリアスな業界にもデジタル技術が応用できるようになった。
例えば、医療、金融、自動車など、これらの業界では、一つのミスが大きく信用を失うきっかけとなる。

人工臓器がバグで停止して利用者が死んでしまったら、そのミスが報告されて改善されても死んだ利用者は蘇らない。
自動運転を実用化しても、運転手を守るために幼稚園児の列に突っ込んでしまったら、その企業の社会的責任が問われる。

したがって、これまでのデジタル業界のノリが通用しない。
ここで、各方面のすり合わせを得意とする日本企業の強みが生きるのではないか、筆者はそう主張する。

さらに、デジタル技術が最先端でないことを必ずしも悲観する必要はない。
GoogleのTensorflow然り、人工知能だってもうすぐコモディティ化する。
いくら革新的な技術を発明しても、デジタル業界の発展は早いため、すぐに追いつかれてしまい、後進にとってかわられる。

それよりも重要なのは、リアル部分を抑えることだ。
例えば医薬品であれば、医薬品をつくることよりも、それをどのように承認を得て、どのように販売するか、というノウハウが重要になるだろう。
現在の製薬メーカーも、すでにそうなっている。イチかバチかの新薬に社運を賭けるのではなく、成功したバイオベンチャーを買収することで新薬を発売し、あとは自社の販路に載せるという戦略だ。

特にヘルスケアサービスはそうなるだろう。規制産業であるうえに、利用者の理解がなければ普及しない。
利用者へのインターフェイスとして医師をうまく使い、規制を切り抜けるために政治・メディアへ働きかける。
こう書くと、結局いまの製薬業界などと勝者の本質は変わらないのかもしれない。

今までのデジタル革命の主領域は、本質的にバーチャルで、サイバーで、カジュアル(Casual)なサービス領域、すなわち「Cの世界」で新しいビジネスが生まれ、経済的な価値を生み出してい

多くのプレイヤーが次第にその事業ドメインをよりリアルでシリアス(Serious)な領域、たとえば医療や金融決済のような「Sの世界」にシフトし始めている

生産管理に関わる機能ドメインが社会的共用資産、すなわち非競争領域とな

要は、革命的なイノベーションの波に飲み込まれた業界において、ビジネスの世界での勝ち負けは、あくまでも急速に変化する環境の中で、構造的・持続的に「稼ぐ」ことのできるビジネスモデル、競争モデルを先に構築できたかどうか、他社に代替されにくい唯一無二のポジションを築き上げられたかどうかで決まる。

こういう時期に大事なことは、目前のイベントに目を奪われず、一喜一憂せず、今起きていることの産業的な意味合い、競争上の意味合いを冷徹に洞察することなのだ。

確率論としては、イノベーションを起こすのは自社以外である確率のほうが圧倒的に高い。経営スタンスとして自らイノベーションを追求する意思は重要だが、それ以上に誰かにやられてしまったイノベーションを自社に有利に作用させる戦略性こそが、現実経営の勝敗を決めている。

日本的経営」とは、同質性、連続性、すり合わせ、ボトムアップ、コンセンサスの経営、「あれも、これも」の経営だからだ。言わば遺伝子レベルで刷り込まれているこの特性の強みを生かしつつ、それを致命的欠点としないためには、「あれか、これか」の選択のための経営のリーダーシップ、トップダウン的要素を適時、的確に作用させるしかない。

不確実なことは不確実なものとして経営すること、これは私たちが賢者たるための「歴史からの学び」なのである。

まだ残されている沃野があるとすれば、それはライブコンテンツのネット配信

規制緩和して自動運転技術やライドシェアのウーバー(Uber)を入れると、タクシー業界で失業者が出て大変なことになると言うのだが、たぶん何も起きない。むしろ、高齢者に運転させ続けるほうが不安(じつはタクシー業界でも運転手の高齢化がどんどん進んでいる)だし、介護が必要な高齢者の移動手段は、現状でも明らかに足りていない。

曖昧さ、揺らぎ、臨機応変、融通無碍さがモノをいう領域については、アナログでファジーな人間様の天下なのである。

また、実際に機械を制御するときに、大脳皮質(典型的なクラウドコンピューティング上のAI)で全部コントロールするのか、それとも脳を通さず脊髄反射(典型的にはエッジコンピューティング上のAI)でやったほうがいいのかは、ケースバイケースで一概には言えない。しかし、すべて中央でコントロールするのではなく、末端で分散処理するとなると、半導体レベルでコントロールすることになるため、これまた設計段階からまったく違うものになる。そこにノウハウを封じ込めることができるので、実は、ブラックボックス化できるネタはいくらでもある。そこが競争領域となっていくの

優秀なエンジニアを恒久的に囲い込めないということは、特定企業の差別化領域にはなりにくいということだ。だからこそ、そうした技術は、よそから取ってくるほうがいいのだ

また、医科向け新薬という極めてシリアスなビジネスにおいて、既存のプレイヤーが、長年にわたり世界中で積み上げてきた規制対応ノウハウや医療機関との臨床試験ネットワークを競争基盤として、ベンチャー型のチャレンジャーたちとすみ分けて行った戦略は、今後の自動車産業などでの戦略展開にとって大いに参考になる

スマイルカーブとは、ある製品のバリューチェーン全体を見たときに、川上(企画・設計・部品)と川下(販売・メンテナンス)側の利幅が厚くなる一方、真ん中の製造工程(組み立て)はほとんど利幅が取れなくなる現象を指す

中国の「紅いシリコンバレー」、深圳あたりのハイテク企業が強いのは、ドローンやVRなどの分野であって、重電や自動車のように耐久要求、安全要求のレベルが桁違いに高い分野はまだ追いつくまでには時間がかかるだろう。逆に、ある程度いいモジュールを買ってきて、組み立てればいいだけの分野については、中国とまともに競い合ってもしかたがない

オープンシステムとクローズドシステムが持続的に共存するハイブリッドな経営システムを確立する必要がある

よそから持ってくれば済むものは、自社開発をやめて外部から調達すると割り切れるかどうか。買収したり、ライセンスを買ってきたり、人材を引き抜いたり、そうした技術を取り込むやり方は様々だ。

日本の医療機器メーカーの弱点とも重なる。  最新の手術型ロボットを海外展開するときに、ライバルのGEやジーメンス、フィリップスはすでにメンテナンスサービスを持っているが、日本の後発メーカーは、そこまでのメンテナンス網を持っていない。だから、たとえばベトナムで医療ニーズが高まっているとしても、すでに拠点を持っているタイからの出張になってしまう。それだけの顧客ベースがないからしかたがないのだが、ベトナムの病院にしてみれば、人の生死が関わっているので、すぐに修理に来てもらわないと困る。だから、たとえ機能的に優れていても、日本のメーカーは選ばれにくい状況だ

となると、レベル4の実証運用を行い、徐々にその運用領域を広げていく役割を担う公共交通事業者と、レベル2の広範な実用領域で技術進化をリードする自動車メーカーやモジュラーメーカーとのコラボこそが鍵となってくる

ロケーションというのは先に押さえた方が勝ちという、ローカルビジネス型の勝ちパターンであり、これはディフェンス的には非常に堅固な競争モデル

当初はECサイトの良し悪しのゲームだったはずが、ふと気がついたら、リアルな物流を押さえてきたアマゾンが最強だったという話になったように、AIや自動運転技術の競争だと思っていたら、いつの間にか駐車場という物理的な場所の競争になっている可能性がある

国の役割は、まずは、それぞれの事業者が違う道、唯一無二の独自路線を行くことを歓迎することだ。裏返して言えば、余計な指針やターゲットを設定しないこと。

日本においてAI技術で商品開発をしても、このガイドラインに真面目に従っているかぎり知財は守られない

日本の組織が変わるのは、それまで守り続けた既得権益や心地よかった習慣を「もうダメだ」「これ以上は維持できない」と諦めたとき

こうした会社では、どちらが希少なリソースかといえば、人間のほうが明らかに希少価値は高い。そのため、法律事務所や会計事務所、コンサルティングファームなどのプロフェッショナル組織は、だいたいパートナーガバナンス(共同経営者方式)になっている。資本主義(キャピタリズム)は希少リソースがリアルキャピタル(お金)の産業向きではあっても、ヒューマンキャピタル(人的資本)が中心の会社とはもともと相性がよくないのだ。

企業だと株主のプレッシャーがキツくて居心地が悪いので、優秀な頭脳の大学への集積が進んでいる。そこから時々起業して、うまくいったらM&Aで買ってもらって(エクジット:出口)、また大学に戻ってくる。そういう循環ができているのだ。

だ。だから自分で稼ぐ力を高めて、それを基礎研究に回せばいいのである。

実は思い切りドメスティックな免許制の規制産業(携帯電話)で儲けて、そのお金で海外の会社を買収してグローバルエリートになってしまおうというのが孫さんのやり方だ。

限られたポストをめぐって、目の前にあるそのポストを手に入れることが最大の関心事になってしまうことに根本的な原因がある。昇進するための手段として仕事をしているということになると、本末転倒になってしまって、真面目に業績を上げたほうがいいのか、社内の競争相手のスキャンダルをつかんでブラック週刊誌に流したほうがいいのか、天秤にかけることになる。えてして後者のほうが簡単なので、そちらにエネルギーを使うことになるのだ。

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