【本】17066『<軍>の中国史』澁谷由里

投稿者: | 2017-04-23

軍隊と政権とのかかわりを、中国の歴史をなぞりながら描いた本だ。

中国の軍隊は、私兵と国軍の間を揺れ動いてきた。

北方民族に対抗するために国軍を増強するが、国軍の維持にはコストがかかる。
そのコストを支えきれずに国力が衰弱すると、私兵が台頭する。
その結果、反乱が起きて政権交代(というとおとなしいが、革命とも言える)が起きる。

ざっくり言うとこの繰り返しである。
そのうち、北方民族に対抗するために別の騎馬民族に防衛を外注したり、その頼った民族に支配されることもあるが、それも範囲が拡大しただけで本質的には変わらない。
しかし、支配されてはいても、支配側を中華思想に染め上げてしまうのは見事だ。

現在も、中国人民解放軍は、正式には中国の国軍ではなく、中国共産党の支配下にある。いわば私兵とも言える。
このような「私兵の国軍化」はいまに始まったことではないというのが、本書を読むとよくわかる。

軍事史をみてみると、ほとんどの時代で「私兵」が中心であって、「おおやけ」の軍隊を保持した経験があさい中国では、軍隊による国際的・法的逸脱にたいする感覚が、すくなくとも日本とはことなる。

農作物がもたらす内的変化としてよく指摘されるのは、富の偏在と社会的格差の問題である。特に主食となる穀物は腐りにくいため、大量かつ長期間の保存が可能であり、それだけでも格差は生じるが、栽培だけではなく貯蔵や分配にたけたものほどゆたかになれるため、貯蔵・分配のありようも格差を拡大する要因になる。

「兵農一致」を維持しようとすれば財政破綻の危険があり、それを回避するために皇帝直轄軍を削減すれば内乱をふせぎえないという、古代中国におけるジレンマ

遼(九一六~一一二五)・金(一一一五~一二三四)・元(一二七一~一三六八)・清(一六一六~一九一二)にも共通することだが、非定住民は定住民を永続的に支配しようとするとき、定住民社会の制度や文化、前例をかならず重視する。

琉球は事実上、薩摩の属国であったにもかかわらず、貿易のつごうから、中国の朝貢国として独立国のようなふるまいをする、「両属」というかたちをとっていた。  明治維新

中国は、私兵が国軍のかわりをはたす歴史をもち、その過程で、統率者が「もの」「かね」「ちから」を分配しながら、軍とのつよいつながりをつくってきた。また軍もそれらをもとめて統率者に依存するという、もちつもたれつの関係を形成してきた。

「国家の軍隊」ではない「中国人民解放軍」、それを支配下におく中国共産党、そして人治のしがらみにくるしむ中華人民共和国、この三者の関係を明確に理解したうえで、日本は中国の言動に過剰反応しないことが肝要

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