【本】17042『ヒトの脳にはクセがある_動物行動学的人間論』小林 朋道

投稿者: | 2017-03-19

これは、ヒトの考え方の特徴についてまとめた本だ。
ヒトは、3つのモジュール群をもっているそうだ。
「対生物専用モジュール」(動物や植物の習性や生態を推察したり理解する働きをもつ)
「対物理専用モジュール」(物体の空間的配置、動き、変化を推察したり理解する働きをもつ)
「対人専用モジュール」(他人の表情や動作、言葉などから、その人の感情や心理を推察したり理解する働きをもつ)
これらを組み合わせることで、効率的な思考が可能になった。
だから、他の動物も擬人化して理解してしまう。

逆に言うと、例えば時間の流れの本質などを理解するのは人間には至難の業だ。進化上、そのような概念をもつ必要がなかったからだ。
だから、ダークマター、時間など物理の本質的な議論は人間にわかりにくいのだろう。

ヒトの認知について有名な、ヒトにはヘビを認識する能力が備わっている、という説があるが、あれは本当なのだろうか。

どうも、「ヘビは悪者」というキリスト教的価値観に縛られた研究結果のように思えてしまう。

アジアではヘビは神の使いとして、尊敬されることも多い。農耕民族にとっては、ネズミ対策に有効な益虫でもある。

まあ、ヒトの認知能力は草原で狩りをしていた頃に備わったのだろうから、農耕民族の件は無関係かもしれない。

しかし、草原で狩りをしていた頃に、ヘビを見つけて貴重なタンパク源として生き延びた個体と、運悪く咬まれて命を失った個体と、どちらが多いのだろうか。

黒く細長いものを認知する能力は確かに備わっているのかもしれないが、意外とそれは、虫・ヘビなど「捕らえやすいタンパク源」を素早く見つけるためなのかもしれないと思う。

 

ヒトにはストレス耐性がもともと備わっているから、デブリーフィングもあまり効果がない、むしろ悪影響すらある、という指摘はなかなか厳しく、面白い。
PTSDの研究も、得てして研究者のバイアスに左右される。
介入した方が、さまざまないい影響を期待してしまうのだろうが、実際はほとんど意味がないのかもしれない。

子どもが、教えられて、「39・40野」を変換回路として使う練習をすればするほど、「文字という視覚的感覚を、39・40野で音情報に変換し、ブローカー野に入力する」という脳内の作業がスムーズに行え

その子どもが、言語としての文字を覚えはじめた段階では、まだ文字を「視覚野」中心に認知し、「絵」あるいは「物体」として認識していると考えればうまく説明できる。つまり、うもも、「視覚野」本来の働きである、物体の理解という点からは同

ホモサピエンスは、少なくとも以下の主要な3つのモジュール群をもっていたと考えられている。 「対生物専用モジュール」(動物や植物の習性や生態を推察したり理解する働きをもつ) 「対物理専用モジュール」(物体の空間的配置、動き、変化を推察したり理解する働きをもつ) 「対人専用モジュール」(他人の表情や動作、言葉などから、その人の感情や心理を推察したり理解する働きをもつ

①動物行動学者の多くは、それぞれが対象にする動物を観察したり、その行動を解析したりする過程で(もちろん論文にはけっして書かないが)、その動物を目いっぱい擬人化し(どうしてもそうしてしまうのである)、行動の仕組みや、その適応的な理由に関する仮説を思い巡らす。  ②私自身が行った調査は、「子どもも大人も、野生生物と触れ合った経験が多い人ほど、生物に対して擬人化思考を働かせる度合いが高い」ことを示している。  ③現在、生活のなかに狩猟採集の営みを保持している自然民の人たちは、例外なく、動物の行動を予想するとき擬人化思考を行い、その予想の的中率は、欧米の一流の動物学者の予想に負けることは

文章は、あくまでも、「どうして……なの」「それは……だからだよ」といった、われわれの脳内「対人専用モジュール」に、自然にフィットする会話

「ヒトの脳は(他の動物でもそうであるが)、外界から、光や空気の振動などの刺激を何でも取り込んで、それらを偏りなく客観的に解析するような情報処理器官ではなく、取り込む刺激の種類や解析の仕方について、かなり偏りをもった情報処理器官である」  その偏りをより直感的に一般の方に理解していただくためには、「クセ」という言葉が適しているのではと思ったのである。そして、ついでに本書の結論めいたことを申し上げておけば、「脳の情報処理の偏りは、ヒト、つまりホモサピエンスが、進化的に誕生した生活環境の中で、次の世代に自分の子どもを残しやすい(正確に言えば、各々の遺伝子が次の世代に自分のコピーを伝えやすい)ような偏りになっている」というこ

「ホモサピエンスが進化的に誕生した、いわば人間にとっての本来の生活環境」というのは、一言でいえば、現在のアフリカのサバンナ様の生息地の中での狩猟採集を中心とした生活環

女性が男性より得意な課題として、「図形や物の配置に関する認知や記憶」「言語の流暢さや単語の思い出し」「四則計算」「手先作業の速さや的確さ」「表情や心理の読み取り

男性が女性より得意な課題として「長距離のルートの把握や検出」「物体の回転や移動などの空間的把握」「標的に物を当てる能力

科学者が使える認知は、ホモサピエンスにもともと備わっている認知様式(つまり、クセのある脳の活動様式)だけなのだ

その様式は学習によって、ある限界の中で修飾されたり、複数の様式が組み合わされたりすることはあるが、質的に、もともと脳内に存在しない様式が生み出されることはない

メクラネズミでは、レンズなどの目の構造体が皮下に埋没しており、その構造も本来の目のパーツをかなり失っている。しかし、その〝目〟から体表に出てくる涙は、たとえばオスの涙は、他のオスの攻撃性を抑える効果をも

人間でも恋人同士は、相手の攻撃性を低下させ親愛の感情を高めるため、親子の間で交わされる、ささやくような声や甘えるような動作を示す。〝口づけ〟についても、親が子どもに噛みほぐした食物を口移しで与える行動に起源をもつと考える研究者が多い

脳の発達を経た成人では、その原型はさまざまな場面で、料理のスパイスのような使われ方もする。「助けて」というメッセージのスパイスを、目の前にいる人たちに、主食材の味に合わせて味わわせるのである。それが嬉し涙であったり、悔し涙であったり、笑いながらの涙であったりするのだ

本能行動の特徴の一つは、試行錯誤によって、その行動をすることがよい結果を生むことを学習するのではなく、特定の状況が生じたらそれを行ってしまう、というこ

私は、人間という動物が進化の過程で遺伝的に獲得していった、欲求や感情を中心にした本能の多さが、人間の苦しみや悲しみの深さや多さを生み出しているのではないかと推察している

ホモサピエンスは地球上の生物の中で、一生涯に出産する子どもの数が最も少ない動物種の1つである。「少ない子どもをもうけ、子ども一個体ずつの世話に大きなエネルギーを費やし、子どもが生殖可能な年齢になるまで育てる」という繁殖の仕方であり、生物学的には少産保護戦略とよばれる

アメリカのコロンビア大学の心理学者G・A・ボナーノ氏は、これまでの苦しみや悲しみに対する人間の心理の学説に転換をもたらすような研究成果を発表して注目を浴びている。  その研究成果を簡潔にまとめると、以下のように表現できる。 「人間には、悲嘆、苦しみを乗り越える力が、本来的に備わっている――」  ボナーノ氏が〝転換〟をもたらしたこれまでの学説というのは、「悲嘆、苦しみを乗り越えるためには、体験

発話によるトラウマの解消や、ストレスに対抗する力をあらかじめ強化するような予防的プログラムといった、外部からの働きかけが効果的である」とする説である。  たとえば、緊急事態ストレス・デブリーフィングという方法は、恐怖の体験をした人に対して、心理学者が行ってきた〝働きかけ〟である。この方法には、恐怖体験をした人にその体験を話してもらい(デブリーフ)、感情を外側に発散させ、カタルシスをもたらすことによって、苦しみや悲しみを小さくしようとする意図があった。  しかし、ここ10年以上の間に行われた幾つかの研究は、この方法には意図されたような効果はなく、場合によっては有害な作用をもたらすことさえあることを示してきた。2004年のインド洋津波の後、WHO(世界保健機関)は、被災者の不安を増強するおそれがあるとして、緊急事態ストレス・デブリーフィングを行わないように警告したという

英語(他の言語は調べられていない)では、ネガティブ感情を表現する言葉のほうが、ポジティブな感情を表現する言葉よりも2倍以上多いという研究結果がある

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