【本】17029『経済学者 日本の最貧困地域に挑む』鈴木 亘

投稿者: | 2017-02-14

大阪のあいりん地区の改革に挑んだ経済学者の著作。
縦割りの行政との戦いの記録と言ってもいい。

筆者は、様々な利権が絡み複雑な地域であるあいりん地区に踏み込み、住民に怒鳴られながら改革を進めた。
そのモチベーションはいったいどこにあるのだろうか。

あいりん地区での病院の貧困ビジネスについても記載がある。
生活保護者の多いあいりん地区では、なおさら過剰医療になるのだろう。
とはいえ、診療報酬が下がる昨今、どの地域でも大小の過剰医療は行われているに違いない。
保健所も、あからさまな不正でなければ目をつぶるだろうし、そもそもパット見で不正かどうかなどわからないケースの方が多いだろう。

話題がそれたが、役所との戦いのなか、筆者の決意・思いの強さが成功への秘訣であったことが読み取れる。

本書で私が描き出そうとしているテーマは主に2つである。1つ目は、「改革の中身よりも、どう実行するかがはるかに重要である」ということ。

改革として何をすべきかがわかっていることと、それを実行に移すこととは、まったく次元の異なることなのである。

本書のもう1つのテーマは、「人口減少社会に合わせた社会の正しい縮み方はいかにあるべきか」ということである。

地獄への道は善意で舗装されている(The road to hell is paved with good intentions.)」といわれるが、現在の居心地よい仕組みが導く未来は、決して明るいものではない。

市場の失敗の一例は「外部性」である。たとえホームレスが好きで野宿生活をしていたとしても、直接的には関係のない第三者に迷惑がかかるのであれば、そのときには行政介入が行われるべきである。第三者に悪影響をおよぼす場合を「外部不経済」、よい影響を与える場合を「外部経済」という。

経済学的には「集積の利益」にその理由が求められよう。  質のよい日雇労働者が大量に集積されており、短時間に大量かつ多種類の労働者を確保できるがゆえに、手配師たちは移動費用を支払ってでも、寄せ場で求人を出す。労働者にとっても、寄せ場は多くの求人が集まり、競争原理で高賃金が得られやすい。寄せ場が大きければ大きいほど両者にとって好都合である。

彼らに対して別途支払われる医療費・介護費は、生活扶助・住宅扶助に匹敵するほどの金額であり、やはりこのまちの経済を潤す結果

あいりん地域の生活保護受給者急増と軌を一にして、あいりん地域内やその周辺で、クリニックや薬局、訪問介護事業者、訪問看護ステーション、デイケアセンターなどが急増

東京山谷の状況は釜ヶ崎の近未来像かもしれない。右に挙げたような構造的変化により、すでに寄せ場としての機能を失いつつあり、分散化、非拠点化が急速に進んでいる。

役所の利害とぶつかりかねない審議会を設置する際、いくつか気をつけなければならないことがある。第1に、トップの後ろ盾をしっかり確保しトップと緊密に連絡し合って、その支持を確保し続けることである。

第2に重要なことは「事務局機能」を絶対に役所任せにしないことである。霞が関の各官庁の審議会が典型であるが、役所は審議会の事務局を担うことによって、会議の議論を自由にコントロールする。

学識経験者とはいっても、所詮、象牙の塔の住人で、社会経験の乏しい「とっちゃん坊や」が多い。プライドだけが異様に高く、コミュニケーション能力が低いこの手合いは、だいたい、この手でイチコロで

第3に重要なことは、矛盾しているようであるが、現場の役人たちをなるべく多く味方につけることである。

地域がひとたび迷惑施設を引き受けてしまえば、地価は下がり、住民は状況に慣れる。さらに社会的限界費用が低くなるから、ますます多くの迷惑施設を引き受けることになる。かくして福井県や福島県には原発銀座ができ、沖縄には米軍基地が集中する

この地域の生活保護受給者に対する貧困ビジネスには

1つは、すでに述べた「病院の貧困ビジネス」であり、近年は行路病院だけではなく、小病院や診療所と介護事業者がタッグを組み、過剰医療・過剰投薬・過剰介護を行う動き

もう1つは、「囲い屋」と呼ばれる住宅の貧困ビジネス

私は「制度を憎んで人を憎まず」という姿勢が、経済学のもっとも重要な基本原理(principle)の1つだと考える。「黒い猫でも白い猫でもネズミを捕る猫はいい猫だ」というが、たとえ、囲い屋であっても、きちんとケアや支援を行うほうが得になる「制度」をつくれば、正しい行いをする可能性が高い。逆に貧困ビジネスがはびこる原因をつくったのは、性善説に基づいて甘い制度設計を行った(あるいは、抜け穴が明らかになっても放置した)担当官庁の責任

地域の人々と行政の間の信頼関係が完全に壊れるからである。まちづくりというものはそういうものではなく、さまざまな人々が幅広く議論を尽くし、おたがい折り合って物ごとを決めていく、そのプロセス自体が大事なのである。

が、「その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない(It takes all the running you can do

経済学では「カウベル効果」と呼ぶが、公的なプロジェクトがうまくいくことが、民間のプロジェクトを呼び込む効果をもたらす。

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