【本】16107『ヨーロッパから民主主義が消える 難民・テロ・甦る国境』 by 川口マーン惠美

投稿者: | 2016-10-11

現在のヨーロッパ情勢について書いた書籍である。

中世以来、『戦争の火種はつねにエネルギーにあった』。
『当時、ヨーロッパでのそれは石炭と鉄鉱石だった。ならば、戦争を起こさないで済むよう、この火種を共同で管理しようというアイデアが生まれた。』
これがECSCの始まりである。

しかし、これがEUへと発展し、共通通貨ユーロが出現した辺りから雲行きが怪しくなる。
ユーロなんか作らなければよかったのに、と思うが、
『ユーロに憧れる気持ちは、世界のどこでも通用するハードカレンシー(国際通貨)を当たり前のように使っている日本人には、永久にわからない』そうだ。

ここでエマニュエル・トッドが登場する。
『トッドが描くEUの経済勢力図は凄い。彼の分析によれば、ベネルクス三国、オーストリア、チェコ、スロベニア、クロアチアは、すでにドイツの経済システムに組み込まれている。加えて、そのドイツ経済圏に自主的隷属をしてしまったのが彼の母国フランス』
そして、
『ロシア嫌いの衛星国ポーランド、スウェーデン、フィンランド、バルト三国は、ロシアを恐れるあまり、放っておいてもドイツ側に寄る。つまり、独立独歩のイギリスとハンガリーを除けば、すでにEUはおしなべてドイツの支配下に入ってしまった』
ということだ。私にも、概ねそう見える。現在のドイツに比肩できる経済力を持つEU諸国は存在しないだろう。

かといって、ドイツも安泰ではない。
移民政策に伴い貧富の格差が増大しており、国民の不満は移民層だけではなく、貧困ドイツ国民層にも広がっている。

現在の中東もヨーロッパとは無縁ではない。以下に簡潔にまとめられている。
『「アラブの春」と呼ばれた民主化運動は二〇一〇年より西側に煽られて、次々と既存の政権を壊していったが、その後、西側の唱える民主主義が根づいた国はない。エジプトは一時、イランのようなイスラム原理の国になりかけたが、現在は軍政である。イスラム過激派の台頭を防ぐことは、いまのところ軍政にしかできないようだ。また、リビアはすでに国の体をなさず、混沌のなかで漂っている。チュニジアだけがどうにかこうにか革命後の体制を保っているが、ここでもイスラム過激派のテロは次第に激しさを増している。』

しばらく、ヨーロッパの混沌は続くだろう。

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