【本】新・観光立国論

投稿者: | 2015-10-17

【まとめ】
所要時間は2時間半。
今後の日本を考えるうえで、つい独りよがりな視点に陥ってしまっていることに気付かされます。
グローバル化した世界のなかで日本がどのような立場にあるか、考えるのに必須の一冊。

【筆者紹介】
デービッド・アトキンソン
日本の文化財の保存を目的とする小西美術工藝社の社長です。
日本在住歴も長く、京都に自宅があります。

【感想】

GDP増大のために観光奨励は必須
人口とGDPが相関することは有名です。ピケティの「新資本論」でもそのように述べられています。
したがって、人口が減少する日本は必然的にGDPが減少する傾向にあります。
そのなかで、「経済成長」を続けるために何をすべきか。

一人あたりのGDPを上げる効果は限定的です。安倍政権の三本の矢でも女性の活用など撃ちだされています。
統計的な観点からみれば、どんな政策を打ち出そうと、これほどの人口がいる以上、人口あたりの平均は先進国の平均レベルに収束します。

また、労働市場という観点からみると、潜在的な経済効果がある家庭内労働力を、すべて労働市場には出せません。全員が生産性の高い職業に就けるわけではないからです。
要は、「おばあちゃんの介護のためにお母さんが働きに出たが、結局介護費用とトントン」という例も多いわけです。

そこで、筆者の考えは、人口を仮想的に増大させる「観光産業の奨励」です。

見当違いな「おもてなし」
しかし、各地で行われる観光奨励政策には見当違いなものが多いです。
例えば、東京オリンピック招致の際に話題となって「おもてなし」
あれには私も違和感がありました。

そもそも、日本人しか「おもてなし」しないと考えることが間違っています。
英語でのホスピタリティという言葉は世界各国どこでも重要視されています。
ロシア系、ドイツ系、イギリス系、米国系、中国系…世界中いたるところでおもてなしがあります。
そんななかで「我々はあなたがたよりホスピタリティがある」とよく言えたものです。

この件に象徴されるように、日本の観光政策には独りよがりなものが多い、と筆者は指摘します。

大事なのはお金を落としてもらうこと
ここが大変分かりやすくていいのですが、観光産業のためには「お金を落としてもらうこと」が重要です。
みんな平等にではなく、対価を払っただけサービスが向上しなければ、富裕層は日本に来てくれません。
サービスを多様化、価格も多様化することが重要でしょう。

花火大会などでも有料席をもっと作るべきです。
お金を落とすグループがいれば、全体的にサービスが向上して、安く済ませるグループも恩恵を被る。
これは飛行機のビジネスクラスの論理と共通しています。

日本人は、平等を重んじるあまりに、独りよがりな理論に陥る傾向があります。
「お金を持っているからって・・・」と言うのではなく「あの人がお金を使ってくれているから・・・できる」と発想を転換することが重要なのでしょう。

視点を広げるために重要な一冊でした。

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