子育て支援が、どのくらい経済成長に貢献するかということに焦点をあてた本。
子ども一人当たりの子育て支援の政府支出は、日本では、先進諸国平均の半分のレベルで据え置かれてきた。
視点が面白い。
子育て支援の効果については、単なる相関関係の可能性もあるため、なんとも言いづらいが…。
子育て支援について、優先順位を決めることが重要ではないか。
ただし、生産性を上げたければ、生産性の高い女性人材には働いてもらうべきだ。
そのためには、このような女性たちが働きやすいような環境を整えるのは優先順位が高い。
さらに、機会の平等という観点からは、貧困の再生産を避けるため、低所得家庭への支援も優先度が高い。
言い換えるならば、高所得層&低所得層に焦点をあてて育児支援を展開すべきだろう。
高所得層へは、規制緩和と言っていいかもしれない。
後半に書いてある、社会保障の歴史については興味深い。
ルターの宗教改革の過程で、教会が行ってきた貧者救済を、住民たちの共同基金によって行うという思想が生まれた。
ルター派では、「信じるものは救われる」ため、貧者も救われなければならないからだ。
統治を安定させたいルター派の北欧国家の国王たちは、国家権力強化のため、救貧税を導入して社会保障政策を充実させた。
だから、現在にいたるまで北欧国家は社会保障が充実している。
これは、アメリカの自由主義とは対照的だ。
アメリカで主流のカルヴァン派では、天国に行けるかどうかは最初から決まっている。
経済的な成功を収めることは、天国に行ける確証になる。
だから経済的に成功するも失敗するも神の思し召しであり、国家が救済する必要はない、というのがベースの価値観である。
子育て支援の本来の目的は、子どもの健全な発達を支援することであり、またそのために、親の健全な子育てを支援することだ」
所得の再分配とは、税金徴収や現金給付、税額控除などによって、所得格差を小さくし、貧困を減らすための政策です。実際に、ほとんどの国では所得再分配の「前」よりも「後」のほうが、子どもの貧困率が大幅に下がっています。 しかし、日本とイタリアは例外です。イタリアは1980年代には再分配「後」のほうが貧困率が高くなってしまっていました。またその後も、少し減っているか、ほぼ変わらない状況です。 そして日本も、1980年代、1990年代半ば、2000年頃は、再分配「後」のほうが貧困率が高くなっていました。
日本の再分配「後」の子どもの貧困率は、1980年代から2012年にかけて上昇し、2012年では16・3%(約330万人)にも上りました(*1)。
子どもを対象としたベーシックインカム(政府が無条件で定期的に支給する定額給付)こそ、社会保障制度の中心に据えるべきだ、とアトキンソンは提言しているのです。
子ども一人当たりの子育て支援の政府支出は、日本では、先進諸国平均の、実に「半分」のレベルで据え置かれ続けてきたことが分かります。他方で、高齢者一人当たりの高齢者福祉の政府支出は、日本でも1990年代後半からぐんぐん伸びて、2000年の介護保険創設を経て、2000年代半ばにはついに先進諸国平均にまでほぼ達しました。シルバーデモクラシーの成果で、日本の高齢者福祉は2000年代になってようやく先進諸国並みになったのです。
各国の人口におけるルター派の割合と、社会保障支出のデータとを重ね合わせてみました。すると、驚くべきことに、きれいに一致したのです。
貧しい人を救う活動は教会が行うのではなく、住民たちがお金を出し合って作る共同基金によって行うべき
1663年には首都ストックホルムで救貧税を導入しました。それを追うように1708年には、すでにルター派に改宗していたデンマークでも救貧税が導入されました。また、同様にルター派に改宗していた他の北欧諸国でも、その後、救貧税が導入されて
「信じる者は救われる」ルター派と違って、カルヴァン派の信者は、自分が救われるかどうか(天国に行けるかどうか)の確証がないため、常に予定説に怯えていました。それなら、せめて自分が救われるかどうかの兆候を知りたいというのが人情というものです。
投資によって偶然儲かったら、それは神に喜ばれている証拠である、と考えたの
「カトリック」「ルター派」「カルヴァン派」という3つのキリスト教の教派が、まさに福祉レジーム論でいうところの、「南欧・西欧の家族主義レジーム・保守主義レジーム」「北欧の社会民主主義レジーム」「アメリカの自由主義レジーム」と対応している
かつての「頼母子講」や「結」といった相互扶助制度は、資本主義が浸透していった明治時代からは、家族的経営にもとづく「企業福祉」へと、姿を変えた
現在、保育士の資格を持ちながら、保育士の仕事に就いていない人が76万人いるという厚労省の発表があります(
2015年の調査によれば、全産業における民間企業の平均年収は489万円です。対して、民間認可保育所の保育士の平均年収(ただし認可と認可外は同額と仮定)は323万円。その差は166万円です。ボーナスを除いた平均月収で比べても、民間の保育士は全産業平均より11万円低いのです(
1・4兆円の保育拡充で0・64%の経済成長率上昇
1・4兆円の保育拡充によって、労働力女性比率は0・34%高まります。これは、日本の労働力人口から換算すると、働く女性が「最大40万人」ほど増える計算になります。
1870年の普仏戦争で人口が増加していたプロイセンに敗れた要因が出生率低下に結びつけられ、1890年代の国勢調査で相次いで人口の減少が明らかになったあたりからです。
フランス同様、子育て支援に力を入れている北欧においては、ベビーシッターや保育ママよりも保育所が充実しています。
ちなみに高齢者のケアに関しても、同じアンケート調査で質問項目がありました。「助けが必要な高齢者の世話は、主に誰が担うべきか」という問いに、北欧は政府や自治体、つまり公的な介護サービスが面倒を見てください、と答え、日本はやはり家族を挙げています。フランスはその中間で、民間と答えた人も多いのです(図10)。
安倍政権も2016年7月の参議院選の公約で、「消費税率10%への引き上げは延期するものの、赤字国債に頼ることなく安定財源を確保して可能な限り社会保障の充実を行う」と宣言しました。