やや和食・手作り礼賛すぎのような気もするが、料理におけるハレとケが混同されている、時間を使うべき下ごしらえではなく、見た目にばかり時間をかけているのは逆だ、というのは納得がいく。品数を増やしたりバリエーションをつけることではなく、素材をきちんと調理することに時間を使いたい。ごはんと味噌汁だけでいい、と肩の力を抜かせてくれる一冊。
食べ飽きるものと食べ飽きないものの違いはどこにあるのでしょう。…人間が味つけをしたおかずというのは、またすぐに違う味つけのものを食べたくなります。一方、食べ飽きないご飯とお味噌汁、漬物は、どれも人間が意図してつけた味ではありません。
脳が喜ぶおいしさと、身体全体が喜ぶおいしさは別だと思うのです。…食べ終わってから感じる心地よさのような感覚、身体がきれいになったような気がする…というあれです。一つ一つの細胞が喜んでいるのです。
家庭にあるべきおいしいものは、穏やかで、地味なもの。よく母親の作る料理を「家族は何も言ってくれない」といいますが、それはすでに普通においしいと言っていることなのです。何の違和感もない、安心している姿だと思います。
調理の基本である下ごしらえを手間とは言いません。…当たり前の調理です。家庭料理、日常の料理は、こうした当たり前の調理以上にはそもそも手をかける必要はない、というのが本当です。…毎日の料理は食材に手をかけないで、素材をそのままいただけばよいのです。