【本】16128『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略』 by リンダ・グラットン, アンドリュー・スコット

投稿者: | 2016-12-11

ベストセラー本である。内容は新鮮なものではないが、売れているだけあってわかりやすい。
100年の人生を生きる時代に、どのようなキャリアが求められるか、ということを時代背景の考察とともに書いている。私達の世代では延命治療は一般的でなくなるので、果たして100年生きる人がどれくらいいるかわからないが、それでもやはり健康な100歳は今より増えるだろう。

本書で述べられているキャリア意識の変化というのは、何も寿命がのびるからという単純な理由だけではない。時代の変化、技術の進化、またそのスピードの速さによる影響が大きい。確かに、本書で述べられているようなキャリア意識の変化は早晩起きるだろうし、すでに起き始めている。

まず、定年が意味をなさない時代が来る。知的労働など、高齢者でも価値を生むことができる仕事では年齢によって一律に退職させるなど人材損失でしかない。これは横山禎徳先生の提唱する「年齢不詳社会」に通じる考え方だ。

さらに、知識が陳腐化する。ワトソンによる論文読破もそうだが、知識はAIに蓄積してもらった方が効率的だ。重要なのは、「それを使って何を経験するか」である。体験の価値がこれまで以上に高まるだろう。VRがいくら発達しても、旅行の価値はうしなわれないし、仕事においても、「現場でどのような体験をし、問題解決をしてきたか」という経験が価値を問われる時代になるだろう。

最後に、未来系書籍のご多分にもれず医療への言及がある。これからの時代は、やはり医療が重要になることは間違いない。しかし、その医療はいまの医療とは姿が異なるものだろう。医師のキャリアにおいても、終身雇用よろしくずっとレールに乗っかっているようでは、すぐに存在価値をうしなうだろう。


“就職、引退の常識が変わる  長寿化を恩恵にするためには、古い働き方と生き方に疑問を投げかけ、実験することをいとわず、生涯を通じて「変身」を続ける覚悟をもたなくてはならない。”

“マルチステージ化する長い人生の恩恵を最大化するためには、上手に移行を重ねることが避けて通れない。柔軟性をもち、新しい知識を獲得し、新しい思考様式を模索し、新しい視点で世界を見て、力の所在の変化に対応し、ときには古い友人を手放して新しい人的ネットワークを築く必要がある。こうした「変身」のためのスキルをもつためには、場合によってはものの考え方を大きく転換し、未来を真に見通さなくてはならない。”

“人生で多くの移行を経験し、多くのステージを生きる時代には、投資を怠ってはならない。新しい役割に合わせて自分のアイデンティティを変えるための投資、新しいライフスタイルを築くための投資、新しいスキルを身につけるための投資が必要だ。”

医療の話
“政府にとって最も手ごわい課題は、おそらく健康格差の問題”
“60歳の人の1%、75歳の人の7%、85歳の人の30%が認知症だ。”
“勤労人口に対する引退人口の割合「老年従属人口指数」”

人口移動
“農村から都市への人口移動である。2010年、世界全体の都市生活者の数は36億人だった。2050年には、それが63億人”
“確かに「遠さ」の弊害は問題でなくなったかもしれないが、「近さ」の価値はむしろ高まっている。いま世界規模で起きている都市への大移住は、新興国における農業から工業へ、農村から都市への移動がすべてではない。先進国でも都市への人口流入が起きている。これは、質の高いアイデアと高度なスキルの持ち主のそばに身を置くことの重要性が高まっていることの表れだ。”

AIとの関連
“人間固有の能力を二種類挙げている。一つは、複雑な問題解決に関わる能力だ。ここでは、専門知識、帰納的推論の能力、コミュニケーションスキルが必要とされる。”
“医療従事者に求められるスキルの中身が変わると見たほうがいい。情報を取り出すスキルではなく、高度な直感的判断、対人関係、チームのモチベーションの向上、そして意思決定に関わるスキルが重要になる”
“長く生産的な人生を送るためには、思考の柔軟性と敏捷性など、どの分野でも役に立つ汎用スキルがいっそう必要とされるようになる。”
“知識の量ではライバルと差がつかず、その知識を使ってどういう体験をしたかで差がつく時代になる”
“雇用主も、机上の知識だけでなく、実際の問題解決能力をもっている人物を欲しがるようになる可能性が高い。”
“新しい分野に移るときに役立つのは、汎用的なスキル・知識と良好な評判の組み合わせだ。公正さと誠実さ、実行力、柔軟性、そして信頼性に関する高い評判は、さまざまな役割や職で価値がある。”

教育の重要性
“教育の投資利益率は、インフレ率に加えて15%ということになる。”
“100年ライフでは、家族と友人、スキルと知識、健康と活力などの無形の資産を充実させることの重要性が高まり、そのための投資が必要になる。家族や友人と過ごす時間、教育とスキルの再習得にかける時間、エクササイズをする時間に投資しなくてはならない。長い人生を生きる人には、これらの資産への投資、とりわけ教育への投資が不可欠だ。”

パートナーとの関係
“「同類婚」(自分と教育・所得レベルが近い人を結婚相手に選ぶこと)が増えている”

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