年金制度は破綻しない、という筆者の主張。
残念ながら、私がこれを読んだ感想は「ああ、年金は破綻するな」だった。
まず筆者と私では、年金の破綻の定義が違う。
筆者は、制度としての年金が続くうち、つまり、「年金を払った人が年金給付年齢に到達したときに、いくらかの年金を受け取ることができる」うちは年金制度が維持できているので、年金が破綻していないと定義している。
だから、年金数理によって払い込んだ額に応じて年金支給額が自動的に計算されるため、年金制度は維持できると主張する。
しかし私は、「年金を払った人が、生活に不十分な程度しか年金がもらえない」ことは年金の破綻を意味すると思う。
勉強不足だったが、年金が賦課方式だとは知らなかった。つまり、いまの年金は、現在の労働者が納める年金で賄われている。
従って、労働人口が減少して高齢人口が増加するこれから、年金給付額は減少を続ける。
これを筆者は、徐々に少なくなるから大丈夫、と言うが、さすがにそれは通用しないだろう。
筆者の年齢もあるのだろうが、この10年では大して減少しなくても、30年後にはわずかしか給付額が残っていない可能性が高い。
制度を維持するだけなら誰でもできる。年金納付が義務付けられている以上、それを分配していれば「制度の維持」は可能だ。
しかしそのなかから、役人の天下り組織の運営分を捻出しなければならないので、年金納付者が怒るのも無理はない。
運用利回りの想定が4%というのが、不可能ではないと筆者は言うが、それはまず達成してからの話だろう。
結局は、年金の問題は経済政策の問題だ、と他者へ押しつけて終わっている。
経済成長が鈍るのも高齢化、年金負担が大きいのも高齢化、結局少子化対策を本気でしなければ、様々な制度が機能不全を起こすことは間違いないだろう。
〈公的年金保険の仕組み〉 ・長生きした人→年金をもらう(生涯) ・早死にした人→掛け捨て(一部、遺族年金)
平成二十六年に、公的年金加入対象者は六七二一万人でした。それに対して未納者は約二二四万人、未加入者は約九万人です。本当に支払っていない人は「(二二四万人+九万人)÷六七二一万人=三%」、つまり約三%しかいないのです。 では、なぜ「未納率四割」などという数字が出てくるのか。それは免除されている第3号被保険者(九三二万人)や、第1号被保険者の中の「免除者(三八〇万人)」「学特・猶予者(二二二万人)※在学中の保険料納付の猶予申請をした人」なども足し込んでいるからです。 たしかにそのような方々も「未納」ということには違いないのですが、しかし、制度上、特例として保険金の免除を認められている人まで「未納」に加えて、「未納率が低くて大変」だと騒ぎ立てるのは、少しどうかと思わざるをえません。
賦課方式とは、現役世代から集めた保険料を老齢世代の年金給付に充てる方式です。自分が支払ったお金は今の高齢者にあげる。自分が高齢者になったときには、そのときの若い人の保険料から年金をもらう。日本をはじめ、主要先進国の公的年金はだいたいこの方式です。 それに対して、民間の私的年金は、「積立方式」です。自分の納めた保険料を積み立てておいて、それを株式や債券などで運用して増やし、将来、年金として受け取ります。
〈ものすごく単純化した公的年金の数式〉 「四〇年納めた保険料の総額」=「二〇年で受け取る年金の総額」
年金問題の大半は、制度の問題ではなく、経済政策の問題
正しい議論するには、「人数」に「所得」を掛けた「金額」を使わなければなりません。年金は「人数」の問題ではなく、「金額」の問題です。そこを押さえておかないと、不安をあおられることになります。
人口が減少しても、それを上回る成長をして所得が伸びていれば、人口減少はあまり大きな問題ではなくなります。
人口減少になると将来の保険料も少なくなりますが、給付額も少なくなって、「保険料」=「給付額」にはあまり影響は出ません。
国民皆年金を積立方式でスタートさせることは難しいため、結果的に、現役世代の保険料を老齢世代の給付に充てる賦課方式にせざるをえなくなります。
名目成長率が四%というと、「実態とかけ離れているのでは」と感じる人もいるかもしれませんが、二%近辺のインフレ率を達成できれば、リーマンショック級の経済苦境さえなければ、四%程度の名目成長率は、けっして夢物語ではありません
賦課方式では世代間の不公平はどうしても避けられません。すでに保険料を払っていない人が年金をもらっている(第1章や本章で触れたように年金制度発足時に高齢者だった方々です)ので、その穴埋めを後世代はするだけであり、先の世代の人ほど有利ともいえます。
経済政策によって一人ひとりの「所得」を拡大できれば、徐々に進む人口減少分を十分にカバーできます。
何も考えずに一番簡単にインフレヘッジできるのが物価連動国債、その次が変動利付国債です。